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Commentary

習近平及びその時代をどう理解するか
2025年以降の政治的「地殻変動」に備えるために

天児慧
早稲田大学名誉教授、アジア共創塾塾長
政治
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中国の最高指導者であり続けている習近平を理解するには、まず〈習近平個人の政治的ビヘイビア〉を考える必要がある。写真は第19回中国共産党大会開幕式の終わりに、胡錦濤(左)と握手する習近平。右は江沢民。2017年10月18日。(共同通信社)
中国の最高指導者であり続けている習近平を理解するには、まず〈習近平個人の政治的ビヘイビア〉を考える必要がある。写真は第19回中国共産党大会開幕式の終わりに、胡錦濤(左)と握手する習近平。右は江沢民。2017年10月18日。(共同通信社)

2025年以降、世界も日本も本論の終わりで触れるように、大きな構造変化に置かれていくことは間違いない。こうした中でほぼ同時期に、中国情勢はどのように予測できるか。確固たる見通しは持てないが、今後10年程度の成長力は大きく低下するだろう。理由は、➀住宅需要の減退、不動産業の低迷など総需要の減少、②過剰投資と投資効率の低下、③過剰債務問題、④「国進民退」(国有企業のシェア拡大と民営企業のシェア縮小)問題、⑤人口減少と少子高齢化の急速な進展といった構造的な要因のためである。

ではこれらの問題を抱える中国の最高指導者であり続けている習近平をどのように理解するか。まず権力の掌握の特徴である。習近平は、中国のみならず世界が注目する人物の一人である。しかし彼の経歴は地方での活動が長く、父親が元国務院副総理(副首相)の習仲勲であったにもかかわらず、世間的に注目されるようになったのは、2000年の福建省長の就任から2002年11月浙江省の党委員会書記に就任した頃であり、50歳に近い年齢で比較的遅かった。しかし、その後の出世は早く、わずか10年の歳月で、共産党のトップである総書記のポストに就(つ)くに至った。しかもトップの座に就くや自らの権力基盤を固めることに全力を挙げ、2017年の第19回中国共産党大会の特徴として、習近平への権力の集中、権威の強化などが進み、まさに習近平指導体制の確立が見られた。

「政治的ビヘイビア」から見た習近平

なぜ比較的短期間でこのような強大な権力体制を築くことができたのか。〈習近平個人の政治的ビヘイビア(ふるまい)〉に絞って考えてみると、以下の4つが特徴的である。

「豹変する」指導者

第1は、「君子は豹変(ひょうへん)する」(『易経』)という言葉がピッタリの指導者ではないかと考える。習は中央に登場した時、軍とか政治グループに強力な後ろ盾を持っていなかった。そこで、ポスト胡錦濤の最高指導者になるにあたって、最も依拠したグループは江沢民派であった。当時の香港情報で習近平を中央指導部に抜擢(ばってき)した功労者は、江沢民の側近中の側近、曾慶紅であるとの報道が複数筋から伝えられた。同時に中国社会科学院の中では当時、「習近平は江沢民派」というのが定説となっていたと言われる(ただし、私は当時からこれに異論を唱えていた。天児慧『中国共産党論』NHK出版新書、2015年、115-116ページ)。事実、習近平が共産党総書記になった18回共産党大会(2012年)の入場式に、習近平は曾慶紅と二人で談笑しながら入場し、両者の関係の緊密性を誇示していた。しかし習近平と江沢民派との蜜月はこの時までであった。

習は下記で見るように、江沢民派と言われる指導者たちを次々と追い詰め、失脚を余儀なくさせた。習近平のこのような処置に江沢民、曾慶紅らは強い不満、怒りを示したが、劉源、王岐山ら他の太子党(たいしとう)と呼ばれる指導者グループ、江沢民らに足を引っ張られ続けてきた胡錦濤ら共青団(きょうせいだん。中国共産主義青年団の略称)グループの支持を得て、反腐敗闘争を有利に進め、江沢民グループの党、軍の指導部からの排除に成功した。しかし、ついでターゲットとしたのは、江沢民グループの排除に多大な貢献のあった胡錦濤及び彼の基盤・共青団である。18回党大会の時点で、胡錦濤は党・軍内で自ら就(つ)いていた主要ポストを習近平に譲り恩を売り、後継者と自他共に認めていた李克強を、そして共青団組織を守り抜こうと尽力した。しかし李克強は19回党大会(2017年)で国務院総理(首相)のポストは維持しながらも、自ら得意としてきた経済分野での実質的な指導は骨抜きにされた。さらに20回党大会(2022年)では党、政府の指導ポストを剥奪(はくだつ)された。将来性を期待されていた胡春華、バランス感覚の鋭い汪洋らも全て指導部から排除された。

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