Commentary
不動産バブル崩壊のあとは生産能力過剰――中国が目指すべき「日本化」とは?
そして、もし不動産価格が経済成長率並みの速度で上昇するとすれば、現役世代は老後のために貯金するよりも不動産を買った方が老後になった時により多くのリターンが得られる。実際、中国ではマンションの購入が安心した老後を送るために行われている。都市に住む比較的裕福な家庭では、自分の息子が結婚して住むための二件目のマンションを購入するケースが多いが、その背景には老後の生活のサポートを息子夫婦に期待するという動機が存在する。これは裏返せば賦課方式の年金の導入が十分ではない状況下では、不動産バブルがその代わりになっていたことを示している。
生産能力過剰にも不動産市場低迷の影が
次に中国の過剰生産能力問題について述べたい。2024年第一四半期の中国の自動車輸出台数は132.4万台に達し、対前年比で33.2%増加した。そのうちの30.7万台は新エネルギー車だった。一方、中国の自動車メーカー全体の稼働率は2017年には62%であったものが2023年には48%にまで低下したという。また、太陽光パネルやリチウムイオン電池の生産能力の稼働率も下がっているという。さらには、太陽光パネルの生産能力は世界の需要の2.5倍もあるという(王=于、2024)。もちろん、これらに対する需要が今後新興国で大幅に伸びる可能性もあるが、欧米から中国の生産能力過剰が批判されていることも事実である(編集部:関連記事として丸川知雄「EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?」もご参照ください)。
こうした生産能力過剰は不動産市場の低迷と関連がある。繰り返しになるが、資本が過剰に蓄積される状況をマクロ経済学では「動学的非効率な状態」と呼ぶ。すでに述べたように、中国の資産バブルはそうした動学的に非効率な状況の下で生じてきた。このことは、不動産価格の上昇は全ての世代において、消費需要を下支えする効果を果たしていたと言える。
一方で、不動産業への銀行貸付は2019年をピークに下落し、その後は銀行の融資先は工業、特にグリーン産業に移ってきている。つまり、不動産価格の低迷とグリーン産業における生産能力過剰とはコインの裏表の関係にある。こうした転換を「質の高い発展」を目指す政府の政策が後押ししているのである。このことは、上記のような、不動産価格の持続的な上昇によって世代間の資源移転を行い、消費を下支えするという効果が消滅した、ということを意味する。製造業への投資が加速することは、中国経済がもともと抱えていた供給過剰の状況を一層深刻化させるからだ。
一方で、近年の中国政府は最終需要を拡大させるための政策を採っている。2024年9月には預金準備率や政策金利を引き下げた。金融緩和が市場に好感を与え、上海市場の株価が急騰した。また、地方政府が優良な住宅開発案件を選定し、銀行に融資を促す不動産融資協調制度も設けられた。