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Commentary

共産党員になるのはどんな人か、党員になるメリットはあるのか
中国家計所得調査(CHIP)と中国総合社会調査(CGSS)から読み解く

厳善平
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
政治
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中国家計所得調査(CHIP)と中国総合社会調査(CGSS)の調査データを適切に調整することで、党員の傾向に関する定量的な分析が可能になる。写真は北京の中国共産党歴史展覧館に掲示された党旗と、宣誓する党員ら。2022年10月(共同通信社)
中国家計所得調査(CHIP)と中国総合社会調査(CGSS)の調査データを適切に調整することで、党員の傾向に関する定量的な分析が可能になる。写真は北京の中国共産党歴史展覧館に掲示された党旗と、宣誓する党員ら。2022年10月(共同通信社)

はじめに

6月30日に、中国共産党中央組織部は2023年末の「党内統計公報」を発表し、党員数および性別・年齢階層別・入党時代別・職業別にみるそれぞれの構成を明らかにした。そうした数字から、党員数の持続的増加に加え、党員の高齢化や高学歴化が進んでいることが窺われ、その背景に党員身分が就職や昇進に有利だという実利重視の風潮があると日本では報じられている。

公式統計によれば、党員数は第12回党大会の1982年から第20回党大会の2022年にかけて、2.47倍に増えたものの、入党要件の1つである18歳以上の成人人口に占めるその割合は同期間中6.7%から8.6%へと小幅な上昇に留まった。共産党員は中国社会で依然として栄誉と共に責任のある特別な存在なのである。

ところが、共産党員身分の正体や機能に関する公式統計の多くが公表されていない。例えば、どのような属性を持つ者が入党を認められやすいか、党員となった者は就職、給与、昇任などで一般人に比べて得しているか、時間の経過と共にこうした状況が変化するのか、などについてはよく分からないところが多い。

本稿では、中国家計所得調査(CHIP)の7回の調査、中国総合社会調査(CGSS) 2003-2021の12回の調査の個票データから関係する項目を抽出し、①入党時の年齢および教育との関連が年代の推移と共にどのように変化してきたか、②個人の属性および家庭要素が入党にどのような影響を与えたか、③給与に表れる党員身分のプレミアムがどの程度のものか、について定量的に分析し、一党独裁体制下における党員身分の正体や機能への理解を深めたい。

共産党の細胞たる党員の若返り

「党内統計公報」によれば、2010-23年の13年間に、60歳以上の党員の割合は25.7%から29.0%に上昇した。これは同じ年の総人口に占める60歳以上人口の割合(13.3%→21.1%。国家統計局による)を大きく上回るが、高齢化のペースは党員の方が全人口に比べて遅い(3.3ポイント<7.8ポイント)。背景に、時間が経つにつれ、党員になった(入党)時の年齢が若くなっていることがあると推測できる。

ここで、生年、入党年が分かるCGSSの12回調査をプールして、党員となった時の年齢(入党年-生年)を算出し、また、入党年別に集計したその平均値、変動係数(標準偏差を平均値で割ったもので、入党年齢のばらつきを表す)を図1のように示すことができる。ただし、観測値の比較的少ない1955年以前および2015年以降は省いている。

同図から以下の統計的事実を挙げることができよう。①観測の対象期間中、入党時の平均年齢も入党者間の年齢差も明らかに異なっている。②入党年齢をベースとすれば、観測期間を特徴の異なる4つの時期に分けられる。すなわち、1960年代までの安定期、1970-80年代前半の上昇期、1980年代後半から90年代前半にかけての安定期、1990年代後半以降の若年化期、である。③入党者間の入党年齢のばらつきは1980年代初頭まで傾向的に増大してきたが、それ以降の長い期間にわたり、高止まりの状況を続け、近年は再び増大する傾向を見せる。

図1 入党年次別にみる入党時の平均年齢と変動係数(CGSS2003-2021)

もう1つ興味深い事実は、党員の若返りが学歴の比較的高い層で進行しているということである。図2もCGSS2003-21の関係情報を利用して作成したものであり、学歴別、入党年次別にみる入党時の平均年齢を表している。図1の全体的状況と比較して学歴別にみた入党年齢の様子がまるで異なることが見て取れる。

1985年までの30年間にわたり、高校以下も大専(3年制の大学専科の略称)以上もそれぞれの入党時平均年齢がほぼ同じような軌跡を辿(たど)ったが、1980代半ば以降の30年間に、学歴によって入党時の平均年齢に次第に開きが生じてきた。学歴の低い高校以下だと、入党時の平均年齢は経時的に緩やかな上昇傾向を見せる一方、大専以上の党員の入党年齢は逆に下がる傾向にある。例えば、1990年に、高校以下対大専以上の入党時平均年齢は33歳対29歳だったのに対し、2010年には37歳対27歳と両者間の開きが4歳から10歳に広がった。大学教育改革が開始された1999年以降、進学率が急上昇してきたのに加え、在校生を対象に入党勧誘が組織的に進められたことが大きな時代背景であろう。

図2 学歴別、入党年次別にみる入党時の平均年齢(CGSS2003-21)

入党の決定要因:誰が党員になりやすいか

中国共産党の党員になろうとする意思のない者は当然ながら党員にはなれない。一方、なりたいからといって誰でもなれるわけではない。家庭環境や時代背景から影響を受けて入党申請をした者は党組織の厳しい選考を経て、合格と認められて初めて党員になれる。では、どのような条件を満たしていたら入党可能になるのだろうか。

ここで、CGSSを2003-08年の4回の調査、2010-14年の5回の調査、2017-2021年の3回の調査をプールして、それをwave1、wave2、wave3と名付ける。そして、回答者が党員であるか否か(党員1、その他0)を被説明変数に、個人属性を表すジェンダー(男性1、女性0)、年齢(二乗も含む)、民族(漢族1、少数民族0)、婚姻(既婚1、その他0)、教育水準(小学校、中学校、高校、大専、大学以上)、および家庭環境を反映する両親の政治身分(党員1、その他0)、教育年数を説明変数とするLogisticモデルを構築し、本人の党員身分の達成に与えた各要素の影響を検証する。図3は推計結果から両親の党員身分・教育の子の入党への影響(オッズ比)、図4は本人の教育水準の入党への影響(同)を可視化したものである。なお、ほとんどの偏回帰係数が顕著に有意であることを付け加える。

都市と農村では、各要素の影響の度合いに差異が見られるものの、概ね以下のような特徴が指摘できる。都市では、①親が党員ではない人に比べて親が党員である人の方が入党する確率が顕著に高い。②母が党員である者の入党確率はそうでない者に比べ1.2-1.5倍高いが、父が党員である者の入党確率はそうでない者に比べ顕著に高く、しかも時間の経過と共に上昇する(3つの調査時期で順次1.7→1.8→1.9倍)、③親の教育年数の子の入党への影響はいずれの調査時期でも有意に観測されないか、1をわずかながら下回る(偏回帰係数が負の値となっている)。

農村では、①親の党員身分および教育年数の子の入党への影響は限定的である。②父が党員である者の入党確率はそうでない者に比べ顕著に高く、しかも影響の度合いが都市のそれを上回る一方、母が党員である場合、子の入党への影響はwave3で初めて有意となり、しかも、影響の度合いが最も高い。③親の教育年数が子の入党へ与える影響もほとんどの調査で有意な結果を見せておらず、都市の状況に似通っている。

図3 親の党員身分・教育の子の入党への影響(CGSS2003-21、オッズ比)

本人の教育が入党に及ぼす影響については、都市と農村を問わず、あるいは各調査の時期にも関係なく、ほぼ共通する特徴が見出される。それは、最終学歴の高い者ほど、党員になる確率が顕著に高まるということである。例えば、都市を対象とするwave3では、中卒に比べ、小学校を卒業した者が党員になるオッズ比はわずか0.4倍にすぎないのに対し、高校、大専、大学以上を卒業した者が党員になるオッズ比はそれぞれ2.1、5.9、13.9倍へと急上昇するのである。

図4 本人教育の入党への影響(CGSS2003-21、オッズ比、Ref.=高校)

注:農村wave1-大学以上の数値は38.0である。

図示していないが、女性に比べ、男性が党員になるオッズ比は都市の3つの調査時期でそれぞれ2.88→2.57→2.11倍、農村の3.59→4.41→3.32倍、と男性優位でありながら、やや改善の兆しも見られる。また、漢族が少数民族より党員になりやすいという統計的事実はwave1の都市、農村で確認できるのみであり(1.23、1.56倍)、ほかのケースでは民族間に有意な差がない、または、少数民族の方が党員になりやすい場合(農村)もあるという結果となっている。加齢と共に入党する確率が上がっていくこともモデルの推計結果から確認できた。

このように、党員身分の達成に深刻なジェンダー・ギャップが観測される一方、少数民族に対する差別はほとんどなくなったといっても過言ではない。親が党員であるか否かという家庭環境が本人の入党に顕著な正の影響を与え、また、親の教育年数が子の入党にマイナスに作用しているか、顕著な影響が観測されない、という統計的事実が興味深い。なぜ、党員身分という政治的資本、教育年数という人的資本の果たす役割がこのように異なっているかについてさらに考える必要がある。

党員身分のプレミアム:市場経済の深化との関連から考える

党員であることは職業選択や収入に正の影響を与える一方、その度合いが時間の経過=市場経済の深化に伴い小さくなってきているという著者による暫定的な研究結果がある(厳善平『現代中国の社会と経済』勁草書房、2021年)。ここでは、CHIP、CGSSの全データを用いてそれをさらに検証してみる。

検証方法は、ミンサー型賃金関数を推計し、ほかの条件が同じである場合の党員身分、教育が職業収入にどのような影響を与え、また、その影響の度合いが時間の経過に伴いどのように推移したかを計量分析する、というシンプルなものである。具体的には、収入関数をLn月収=f(男性、年齢、年齢2乗/100、漢族、非農業戸籍、既婚、党員、教育、地域、調査年)で定式化し、各調査の個票データを用いる収入関数をOLS法で推計する。

図5(a~d)は、調査時に就業している回答者を対象とした推計結果から党員身分、教育年数の偏回帰係数を抽出して作成したものである(CGSSに基づいた推計では収入が2000年を100とする消費者物価指数で実質化された)。通常、前者は党員身分を持つ者の職業収入が一般人に比べどれぐらい高いかを表す党員プレミアム、後者は学校教育が1年増えると、職業収入がどれぐらい上がるかを表す教育収益率、とそれぞれ呼ばれる。

まずCHIPに基づいた推計結果から党員プレミアム、教育収益率の推移(図5a図5b)に関する特徴を指摘する(2007年調査には党員に関する設問がない)。農村における党員プレミアムは1988年、95年、2002年にそれぞれ75.4%、25.1%、26.6%と、都市の7.3%、14.0%、15.6%を大きく上回るが、両者の開きが縮まる傾向を見せた。2010年、13年および18年調査では、都市の党員プレミアムはそれぞれ5.0%、5.6%、11.9%と以前に比べ少なくなったものの、依然としてプラスであり、かつ増える傾向にある。それと対照的に、農村の党員プレミアムは負の値(2012年、13年はそれぞれ-6.4%、-8.3%) に転じた、または、一般人との有意な差がなくなった。このように、党員プレミアムは時期により大きく変化するが、大きな流れとしては時間の経過=市場経済の深化と共にそれが減少してきた。そうした中、農村における党員プレミアムの減少はより一層激しいものだったといえる。

他方、人的資本を表す教育の収入に与える影響も都市で強まったのに対し、農村では弱まり、2000年代初めごろに両者が逆転した。以来、教育収益率は都市が常に農村を上回り、近年は両者が収斂(しゅうれん)する傾向にある。

次に、CGSSに基づいた党員プレミアム、教育収益率の推移(図5c図5d)を観察する。ここでは、3つの調査時期(wave1、wave2、wave3)をプールして収入関数を計測した。一見して明らかなように、党員プレミアムも教育収益率もCHIPの結果と必ずしも一致しない。例えば、wave2の党員プレミアムは農村が都市を上回ったが、CHIPのそれと正反対である。教育収益率では、2つの系統の調査に基づいた推計結果のトレンドは似通っているものの、教育収益率の水準が大きく異なる。とはいえ、近年、農村より都市の党員プレミアムが多く、都市と農村の教育収益率が収斂(しゅうれん)している、というCHIPの推計結果からも観測された統計的事実が挙げられる。

注:各データセットから抽出された就業者を対象とした推計結果であり、折れ線は党員身分、教育年数の収入に与える影響の度合いを表す偏回帰係数である。

以上をまとめると、この間の中国では、党員という政治的身分の職業収入に与える正の影響(党員プレミアム)は時間の経過と共にいったん低下したが、2010年代以降の都市部を中心に再び上昇するようになった。これは「党がすべてを指導する」という新たな方針が貫徹されていることの表れであろうか。また、人的資本に対する市場の評価(教育収益率)は都市部を中心に高く、都市と農村のそれが収斂していることから、労働市場の統一が全国で進んでいることが示唆される。

むすび

周知の通り、CHIPもCGSSも最初から海外の研究機関や研究者が深く関わる形で開始されたものである。そのため、調査票の設計段階で共産党員、戸籍、宗教、民族といった中国の特性を反映する設問が多く取り入れられた。こうした情報を個票データから利用することで公式の集計データでは行えない分析が可能となった。実際、中国の内外でこれらの個票データによる学術論文が数多く蓄積されている。

ところが、上述のデータはいずれもサンプリング調査であり、サンプルの数が限られるだけでなく、サンプルの抽出も完全にランダムに行われたわけではない。例えば、CGSSの各調査はほぼすべての省・自治区・直轄市(省区市)で実施されたが、サンプル数は1万人余りに留まる。対照的に、CHIPの各調査はサンプルが大きいものの、対象の省区市が比較的少なく、各調査でも変化したりする。例えば、直近のCHIP2018では、15省区市から2万世帯余り、7万人余りが抽出された。もう1つ、CHIPもCGSSもクロス・セッション・データであり、時系列的に比較可能なパネルデータではない、という性質も指摘できる。

そうした理由から、CHIP、CGSSの個票データを集計したり計量分析したりして、その結果をもって全国の状況を推測することには限界があり、また、異なるデータセットに基づいた結果を縦横に比較するのにも慎重さが求められる。本稿では、各調査の関連項目をできる限り比較可能な形で調整してデータ解析を試みたが、分析結果を時系列的に、あるいは、同じ時期のそれを横断的にみて、統一的解釈を与えることが難しいところも確かにある。とはいえ、こうした問題は、個票データの利用を避ける理由にはならないと考える。豊かなアイディアと適切なテクニックを持ち合わせていれば、必ずその中から宝物をマイニングすることができる。

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