Commentary
共産党員になるのはどんな人か、党員になるメリットはあるのか
中国家計所得調査(CHIP)と中国総合社会調査(CGSS)から読み解く
本人の教育が入党に及ぼす影響については、都市と農村を問わず、あるいは各調査の時期にも関係なく、ほぼ共通する特徴が見出される。それは、最終学歴の高い者ほど、党員になる確率が顕著に高まるということである。例えば、都市を対象とするwave3では、中卒に比べ、小学校を卒業した者が党員になるオッズ比はわずか0.4倍にすぎないのに対し、高校、大専、大学以上を卒業した者が党員になるオッズ比はそれぞれ2.1、5.9、13.9倍へと急上昇するのである。
注:農村wave1-大学以上の数値は38.0である。
図示していないが、女性に比べ、男性が党員になるオッズ比は都市の3つの調査時期でそれぞれ2.88→2.57→2.11倍、農村の3.59→4.41→3.32倍、と男性優位でありながら、やや改善の兆しも見られる。また、漢族が少数民族より党員になりやすいという統計的事実はwave1の都市、農村で確認できるのみであり(1.23、1.56倍)、ほかのケースでは民族間に有意な差がない、または、少数民族の方が党員になりやすい場合(農村)もあるという結果となっている。加齢と共に入党する確率が上がっていくこともモデルの推計結果から確認できた。
このように、党員身分の達成に深刻なジェンダー・ギャップが観測される一方、少数民族に対する差別はほとんどなくなったといっても過言ではない。親が党員であるか否かという家庭環境が本人の入党に顕著な正の影響を与え、また、親の教育年数が子の入党にマイナスに作用しているか、顕著な影響が観測されない、という統計的事実が興味深い。なぜ、党員身分という政治的資本、教育年数という人的資本の果たす役割がこのように異なっているかについてさらに考える必要がある。
党員身分のプレミアム:市場経済の深化との関連から考える
党員であることは職業選択や収入に正の影響を与える一方、その度合いが時間の経過=市場経済の深化に伴い小さくなってきているという著者による暫定的な研究結果がある(厳善平『現代中国の社会と経済』勁草書房、2021年)。ここでは、CHIP、CGSSの全データを用いてそれをさらに検証してみる。
検証方法は、ミンサー型賃金関数を推計し、ほかの条件が同じである場合の党員身分、教育が職業収入にどのような影響を与え、また、その影響の度合いが時間の経過に伴いどのように推移したかを計量分析する、というシンプルなものである。具体的には、収入関数をLn月収=f(男性、年齢、年齢2乗/100、漢族、非農業戸籍、既婚、党員、教育、地域、調査年)で定式化し、各調査の個票データを用いる収入関数をOLS法で推計する。
図5(a~d)は、調査時に就業している回答者を対象とした推計結果から党員身分、教育年数の偏回帰係数を抽出して作成したものである(CGSSに基づいた推計では収入が2000年を100とする消費者物価指数で実質化された)。通常、前者は党員身分を持つ者の職業収入が一般人に比べどれぐらい高いかを表す党員プレミアム、後者は学校教育が1年増えると、職業収入がどれぐらい上がるかを表す教育収益率、とそれぞれ呼ばれる。
まずCHIPに基づいた推計結果から党員プレミアム、教育収益率の推移(図5a、図5b)に関する特徴を指摘する(2007年調査には党員に関する設問がない)。農村における党員プレミアムは1988年、95年、2002年にそれぞれ75.4%、25.1%、26.6%と、都市の7.3%、14.0%、15.6%を大きく上回るが、両者の開きが縮まる傾向を見せた。2010年、13年および18年調査では、都市の党員プレミアムはそれぞれ5.0%、5.6%、11.9%と以前に比べ少なくなったものの、依然としてプラスであり、かつ増える傾向にある。それと対照的に、農村の党員プレミアムは負の値(2012年、13年はそれぞれ-6.4%、-8.3%) に転じた、または、一般人との有意な差がなくなった。このように、党員プレミアムは時期により大きく変化するが、大きな流れとしては時間の経過=市場経済の深化と共にそれが減少してきた。そうした中、農村における党員プレミアムの減少はより一層激しいものだったといえる。
他方、人的資本を表す教育の収入に与える影響も都市で強まったのに対し、農村では弱まり、2000年代初めごろに両者が逆転した。以来、教育収益率は都市が常に農村を上回り、近年は両者が収斂(しゅうれん)する傾向にある。