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Commentary

中国はロシアとどのように向き合っているのか
中露首脳会談と「5つの堅持」から見える距離感

熊倉潤
法政大学法学部国際政治学科教授
政治
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5月の中露首脳会談後の共同記者発表で、習近平は「5つの堅持」の原則を示した。写真はハルビンの「中露博覧会」の会場に掲げられた中国とロシアの国旗。2024年5月16日(共同通信)
5月の中露首脳会談後の共同記者発表で、習近平は「5つの堅持」の原則を示した。写真はハルビンの「中露博覧会」の会場に掲げられた中国とロシアの国旗。2024年5月16日(共同通信)

2024年5月16日、プーチン大統領が訪中し、習近平国家主席と首脳会談を行った。会談後に発表された共同声明は、すでに報道等で知られているように、両国関係の緊密さを誇示するものとなった。同時にアメリカに共同して対抗する姿勢が打ち出され、処理水問題で日本を牽制(けんせい)する表現も見られた(注1)

会談後に行われた両国首脳による共同記者発表では、習近平は「5つの堅持」を示している。これについて中国外交部のホームページなどでは大きく扱われているが(注2)、日本語の媒体では、人民網日本語版(注3)を除き、ほとんど紹介されていない。本稿では、習近平政権の対ロシア外交の基本方針、また中国とロシアの距離感などを知るうえで重要と思われる、この「5つの堅持」の内容を見てみたい。

「5つの堅持」(注4)
第1に、相互尊重を根本とすることを「堅持」し、核心的利益の問題で常に相互に支持する。
第2に、ウィンウィンの協力を動力とすることを「堅持」し、中露の新たな互恵互利の構造を構築する。
第3に、世代を超えた友好を基礎とすることを「堅持」し、中露友誼の聖火を共に伝えていく。
第4に、戦略協力を支えとすることを「堅持」し、グローバル・ガバナンスを正確な方向に導く。
第5に、公正正義を主旨とすることを「堅持」し、紛争問題の政治的解決の推進に尽力する。

中露の距離感

ここでまず注目されるのは、第1に「相互尊重」が掲げられていることである。「相互尊重」という言葉は、今回の中露首脳会談における習近平の発言中、公表された部分だけで4回も使われている。共同記者発表において、習近平は、第1の「相互尊重」の点について以下のように説いている。

私とプーチン大統領は、中露両国が大国、隣国としての関係を発展させるうえで重要なことは、相互尊重、平等な姿勢、それからお互いの核心的利益に関わる問題、重大な問題において常に相互にしっかりと支持することであると、一致して考えている。これはまた、中露新時代全面戦略協力パートナーシップの核心的本質でもある。双方は引き続き、「同盟せず、対抗せず、第三国に対するものにしない」という原則を持って、政治的相互信頼を不断に深め、各自が選択した発展の道を尊重し、相互にしっかりと支持し合うなかで各自の発展と振興を実現する(注5)

習近平がこのように述べていることから明らかなように、「相互尊重」とは、各自が選択した発展の道を尊重するという意味合いで使われており、「相互信頼」「相互支持」と関連付けられていることがわかる。そして、中露各自が選択した発展の道、中露各自の発展と振興の実現という表現に見られるように、「各自」という言葉(中国語でも同じく各自)が繰り返し使われていることにも注目される。

ところで、別稿(注6)で触れたように、ウクライナ侵攻後、中露関係の緊密化が顕著になるなか、プーチンが習近平の「ジュニアパートナー」であるかのような指摘が独り歩きすることが増えたように思われる。確かに中露間で緊密な連携が進んでいることは一面の事実だが、習近平政権がプーチンを「ジュニアパートナー」と見なしているとすれば、このような「相互尊重」「各自の発展」といった言い方はなされないだろう。習近平においても、その場に同席していたプーチンにおいても、中露間はそれぞれ独自の発展の道を持った国同士の「相互尊重」という距離感でいると考えるのが自然だろう。

経済・文化面での協力の進展

次に、第2の点に関しては、これまでどおり、貿易額の増加を指摘し、中露の経済関係の発展を謳(うた)っている。これだけ見ると特に新しい指摘ではないが、プーチンが北京での中露首脳会談後にハルビンを訪問し、同地で8回目の開催となる中露博覧会の開幕式に出席したこと、そこでの講演でロシア極東と中国東北部の地方協力を推進すると表明したことなどを踏まえると、中露間の経済協力が、ロシア極東と中国東北部の地方協力に焦点をあてるかたちで、これまで以上に具体的に進展しつつあることがわかる。

この地方協力は、単なる掛け声にとどまらず、王毅外相がロシアのニージニー・ノヴゴロドで開かれたBRICS外相会議に出席後、イルクーツクを訪問、イルクーツク州知事イーゴリ・コーブゼフと会談し(6月12日)、地方協力の推進を確認したことに表れている(注7)。この動きはその直後、6月17日に開催された中国の遼寧省とロシアのイルクーツク州の友好交流・経済貿易協力会議につながった。

第3の点に関しては、習近平自身の説明で、プーシキン、トルストイの作品が中国で広く知られていること、一方で京劇、太極拳がロシアで愛されていることが挙げられ、特に人文分野における協力の拡大が指摘されたところに特徴がある。実際に、6月4日から5日にかけて中国国家図書館とロシア国立図書館が主催する第2回中露図書館フォーラムが北京で開催されている。

一方、プーチンも、ハルビン工業大学で講演した際に、ロシアでは約9万人の学生(小学生から大学生までを指す)が中国語を学んでいると述べ、同時にスポーツ分野での協力についても強調している(注8)。今後、文化、教育、スポーツといった次世代を意識した分野で、世代を超えた中露の協力が進むことが考えられる。こうした点から、習近平がロシアとの関係を、世代を超えた長期的なものとしてとらえていることがわかる。

国際政治における中露協力

第4の点に関しては、国連、APEC、G20などでの緊密な連携と多極化の推進が掲げられ、ここで習近平はロシアが今年BRICSの議長国に就任し、中国が来年上海協力機構(SCO)の議長国に就任することに直接言及している。議長国としての相互支持が言われ、またグローバル・サウスの団結も謳(うた)われている。

内容として代わり映えしないように見えるかもしれないが、中露首脳会談後の6月10日にBRICS外相会合が開催された。それにあわせて行われた中露外相会談で、王毅は、中国はロシアのBRICS議長国としての取り組みを全力で支援し、グローバル・サウスの連合を促すとしている(注9)。こうした具体的行動を見ると、中露関係はただの二国間関係ではなく、グローバル・サウスと密接な関係を持っていることがわかる。

第5の点に関しては、習近平の説明ではパレスチナ問題とウクライナ危機(中国語原文で危機とされている)が挙げられる。特に後者(ウクライナ問題)については多くの言及があり、政治解決が正確な方向性であると中露双方とも認識していること、中国の立場は一貫しており、各国の主権、領土的一体性を尊重し、各当事者の正当な安全保障上の懸念を尊重し、バランスの取れた効果的かつ持続可能な新たな安全保障体制を構築することが指摘された。

第5の点もまた、これまで繰り返し言われてきたことのように見えるが、習近平の言う政治解決が、事実上、ロシアに寄り添ったものであることは、その後にスイスで開かれた平和サミットへの中国の欠席に示されている。中国外交部は平和サミットへの欠席について、「ロシアとウクライナの双方が認める、各国が対等に参加する、すべての和平案が公平に議論される」の三要素が満たされるべきであるところ、実現していないからだと説明した(注10)。平和サミット欠席の方針について、首脳会談時にプーチンと習近平のあいだで、直接の確認があったと推察される。

プーチンは北京に支援を求めにいったのか

中露首脳会談に際し、窮地にあるプーチンが中国側に支援を求めに行ったかのような評論が世界のさまざまなメディアで流された。これが当事者の考えと異なることは、プーチンの発言が示している。中露首脳会談においてプーチンは、「昨年3月、習近平主席も国家主席再任後間もなくロシアを国賓として訪問した」としたうえで、「これは我々両国の友好の伝統であり、双方が新時代の露中全面戦略協力パートナーシップの強化を高度に重視していることを示している」と述べている(注11)

確かに習近平も国家主席再任後の2023年3月にロシアを訪れており、今回の中露首脳会談もまた、中露間で首脳の相互訪問が重視されていることの表れとみられ、必ずしも俗に言うように、プーチンが援助を求めにいったということではない。しかしここで指摘したいのは、単に首脳の往来が活発で、また双方向的であるということではない。中国側もまたプーチンと長期的に戦略協力を行っていくことに前向きなのである。

本稿においてこれまで見てきたように、中国側は習近平が前面に立って、「5つの堅持」という建付けで、対露外交の方針を体系立てて説明した。これはロシアの間接的支援を含めた中露関係の発展を「堅持」することが、単にプーチンの求めに応じたものとしてではなく、中国外交の主体的、能動的な発展の一環として位置づけられていることを意味している。

「5つの堅持」の第3点に象徴されるように、習近平はロシアとの良好な関係を、今後も世代を超えて維持していくつもりである。また第4の点に示されているように、中露は戦略協力の関係を今後も志向しているのであり、ただの便宜的、打算的な関係でもなければ、「ジュニアパートナー」の語に代表されるような従属的、一体的な関係としても認識されていない。「相互信頼」関係、戦略協力関係であることを自負し、志向している中露両国であるとの前提のもと、中露両国が作り出そうとする多極的世界を注視していく必要があるだろう。

(注1) 中国外交部「中華人民共和国和俄羅斯聯邦在両国建交75周年之際関于深化新時代全面戦略協作伙伴関係的聯合声明(全文)」2024年5月16日。https://www.mfa.gov.cn/ziliao_674904/1179_674909/202405/t20240516_11305860.shtml

(注2) 中国外交部「習近平同俄羅斯総統普京共同会見記者」2024年5月16日。https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202405/t20240516_11305615.shtml

(注3) 人民網日本語版「習近平国家主席、中露関係の「5つの堅持」を語る」2024年5月17日。http://j.people.com.cn/n3/2024/0517/c94474-20171073.html

(注4) 和訳は筆者による。原文は注2参照。

(注5) 同上

(注6) 熊倉潤「ロシアは中国の「ジュニアパートナー」になるか:深化する中露関係の現状と未来」中国学.com、2024年。

(注7) 中国外交部「王毅会見俄羅斯伊爾庫茨克州長科布沢夫」2024年6月12日。https://www.mfa.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/202406/t20240612_11434934.shtml

(注8) 央広網「俄羅斯総統普京到訪哈工大:希望俄中両国青年加強交流」2024年5月18日。https://news.cnr.cn/native/gd/20240518/t20240518_526708819.shtml

(注9) 中国外交部「王毅会見俄羅斯外長拉夫羅夫」2024年6月10日。https://www.mfa.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/202406/t20240610_11416079.shtml

(注10) 中国外交部「2024年6月3日外交部発言人毛寧主持例行記者会」2024年6月3日。https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/fyrbt_674889/202406/t20240603_11375826.shtml

(注11) 中国外交部「習近平同俄羅斯総統普京会談」2024年5月16日。https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202405/t20240516_11305615.shtml

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