Commentary
中国はロシアとどのように向き合っているのか
中露首脳会談と「5つの堅持」から見える距離感
習近平がこのように述べていることから明らかなように、「相互尊重」とは、各自が選択した発展の道を尊重するという意味合いで使われており、「相互信頼」「相互支持」と関連付けられていることがわかる。そして、中露各自が選択した発展の道、中露各自の発展と振興の実現という表現に見られるように、「各自」という言葉(中国語でも同じく各自)が繰り返し使われていることにも注目される。
ところで、別稿(注6)で触れたように、ウクライナ侵攻後、中露関係の緊密化が顕著になるなか、プーチンが習近平の「ジュニアパートナー」であるかのような指摘が独り歩きすることが増えたように思われる。確かに中露間で緊密な連携が進んでいることは一面の事実だが、習近平政権がプーチンを「ジュニアパートナー」と見なしているとすれば、このような「相互尊重」「各自の発展」といった言い方はなされないだろう。習近平においても、その場に同席していたプーチンにおいても、中露間はそれぞれ独自の発展の道を持った国同士の「相互尊重」という距離感でいると考えるのが自然だろう。
経済・文化面での協力の進展
次に、第2の点に関しては、これまでどおり、貿易額の増加を指摘し、中露の経済関係の発展を謳(うた)っている。これだけ見ると特に新しい指摘ではないが、プーチンが北京での中露首脳会談後にハルビンを訪問し、同地で8回目の開催となる中露博覧会の開幕式に出席したこと、そこでの講演でロシア極東と中国東北部の地方協力を推進すると表明したことなどを踏まえると、中露間の経済協力が、ロシア極東と中国東北部の地方協力に焦点をあてるかたちで、これまで以上に具体的に進展しつつあることがわかる。
この地方協力は、単なる掛け声にとどまらず、王毅外相がロシアのニージニー・ノヴゴロドで開かれたBRICS外相会議に出席後、イルクーツクを訪問、イルクーツク州知事イーゴリ・コーブゼフと会談し(6月12日)、地方協力の推進を確認したことに表れている(注7)。この動きはその直後、6月17日に開催された中国の遼寧省とロシアのイルクーツク州の友好交流・経済貿易協力会議につながった。
第3の点に関しては、習近平自身の説明で、プーシキン、トルストイの作品が中国で広く知られていること、一方で京劇、太極拳がロシアで愛されていることが挙げられ、特に人文分野における協力の拡大が指摘されたところに特徴がある。実際に、6月4日から5日にかけて中国国家図書館とロシア国立図書館が主催する第2回中露図書館フォーラムが北京で開催されている。
一方、プーチンも、ハルビン工業大学で講演した際に、ロシアでは約9万人の学生(小学生から大学生までを指す)が中国語を学んでいると述べ、同時にスポーツ分野での協力についても強調している(注8)。今後、文化、教育、スポーツといった次世代を意識した分野で、世代を超えた中露の協力が進むことが考えられる。こうした点から、習近平がロシアとの関係を、世代を超えた長期的なものとしてとらえていることがわかる。