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Commentary

ロシアは中国の「ジュニアパートナー」になるか
深化する中露関係の現状と未来

熊倉潤
法政大学法学部国際政治学科教授
政治
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2023年10月23日、「一帯一路」の国際会議の記念撮影に臨む中国の習近平国家主席(右)とロシアのプーチン大統領=北京の人民大会堂(共同通信IMAGE LINK)
2023年10月23日、「一帯一路」の国際会議の記念撮影に臨む中国の習近平国家主席(右)とロシアのプーチン大統領=北京の人民大会堂(共同通信IMAGE LINK)

実際に習近平政権の外交において、現在もプーチンはかなり丁重に扱われている。そのことは2023年10月17日夜に行われた第3回一帯一路サミットの歓迎宴会の際に、プーチンと習近平の2人が先頭に並んで会場に入る様子が『新聞聯播』で全国に流されたことからもわかる(注14)。この時のいわゆる集合写真でも、習近平の隣に立つのは彭麗媛夫人とプーチンであった。プーチンとの友好関係を見せつける相手は、中国国内の党員、国民だけでない。国外においては対米牽制の意味もあろう。

このような中国側の行動は「ジュニアパートナー」論で説明できるのだろうか。とくに習近平のプーチンに対する厚遇ぶりを見ると、プーチンのロシアは、習近平の中国にとって、「ジュニアパートナー」というより、先輩格として尊重される「シニアパートナー」なのではないかとさえ思われる。

年齢はプーチンが習近平の1歳上にすぎないが、国家の最高指導者となったのはプーチンが12年早い。プーチンは習近平が地方指導者であった頃から一国の指導者であり、習近平の先代、先々代の指導者である胡錦濤、江沢民と対等に付き合っていた。習近平自身にとっても、総書記になってまもなく、まだ権力基盤を確立していない頃から、親しく接してくれたのがプーチンであった。そのような意味では、習近平とプーチンの個人的関係において、プーチンはまぎれもなく習近平の兄貴分であった。

プーチンを「シニアパートナー」として支える理由

一方で「シニアパートナー」という言葉には、以前より衰えが目立つようになり、周りに負担をかける迷惑な存在というニュアンスもあろう。先に述べたように、中国にとってウクライナ戦争は迷惑な事態であった。習近平にとってウクライナ戦争で孤立したプーチンを引き受けるのは、一種のリスクである。しかし習近平政権には、それでもプーチンを支えなければならない理由がある。プーチンが倒れ、ロシアに親欧米政権ができれば、もっと困ったことになるからである。

今プーチンにいなくなられては、中国が望む「多極世界」の重要な一角が崩れることになる。中国にとって必要なのは、中国と一緒にアメリカに対抗できる、ほどよく強いロシアであって、中国に従属する「ジュニアパートナー」では必ずしもない。その意味では、頼りない「ジュニアパートナー」なり「属国」なりにロシアが成り下がることは、中国が一番望んでいないのかもしれない。習近平がプーチンやミシュスチンに会うたびに、「中国側はロシア人民が自ら選択した発展の道を歩むことを支持する(注15)」と述べているのも、そのような意味合いがあるのだろう。

最後に、中露関係は西側からさまざまな固定観念で見られている。前述のロ・ボボは、固定観念に捉われず、中国、ロシアの具体的な行動をみるよう提言している(注16)。この点、筆者も同感である。こちらの物差しではかるのは限界があり、誤解を生む。こちらが恐れたり、期待したりするのに合わせて、ロシアも中国も行動するわけではない。一方で、ロシア、中国はこちらの恐怖や期待をあおるような行動もとるからやっかいである。

こちらが「ジュニアパートナー」と思っても、ユーラシア大陸側では、現実にそうなっていない可能性は大いにある。そのような前提でこれからの情勢をみていきたいと思う。

***

個人的なことで恐縮ですが、アジア経済研究所で中露関係について研究し始めた頃に何度か相談をした故・岡奈津子氏のことを思い出しながら本稿を書きました。岡さんに本稿を捧げたく思います。

(注1)拙稿「ロシアと中国──両国の関係はウクライナ侵攻で変わるのか──」『大国間競争時代のロシア』研究会報告書、日本国際問題研究所、2023年、175-186ページ。https://www.jiia.or.jp/pdf/research/R04_Russia/01-11.pdf

(注2)今日の視座からみた中ソ、中露関係の歴史的変遷については、さしあたり以下を参照。石井明「プーチン大統領訪中と中ロ「逆転」の歴史的位相」『外交』82号、2023年、104-109ページ。

(注3)Alexander Gabuev,“China’s New Vassal: How the War in Ukraine Turned Moscow into Beijing’s Junior Partner,”August 9,2022. https://www.foreignaffairs.com/china/chinas-new-vassal?check_logged_in=1&utm_medium=promo_email&utm_source=lo_flows&utm_campaign=registered_user_welcome&utm_term=email_1&utm_content=20231226

(注4)Ibid.

(注5)廣瀬陽子「離婚なき便宜的結婚――ロシアの勢力圏を侵害する中国」SYNODOS、2018年8月24日。https://synodos.jp/opinion/info/21949/

(注6)ガブエフの議論を「ジュニアパートナー」論として単純化してよいのかという問題もあるかもしれないが、「ジュニアパートナー」という言葉はガブエフが自身の論考のタイトルに使っているものであり、筆者が印象操作しているのではない。

(注7)Михаил Коростиков, Возможности без желания. Почему Россия не станет вассалом Китая, Carnegie Politika, 14.06.2023. <https://carnegieendowment.org/politika/89964>;Mikhail Korostikov,“Is Russia Really Becoming China’s Vassal?”Carnegie Politika,06.07.2023. < https://carnegieendowment.org/politika/90135>

(注8)蓮見雄「ロシア経済と多極化する世界(2)」CISTEC Journal(208)、2023年11月、41-42ページ。

(注9)同上、42ページ。

(注10)Bobo Lo,“The Sino-Russian Partnership: Assumptions, Myths and Realities,” Russie NEI Reports, No.42, March 2023. p. 29. https://www.ifri.org/sites/default/files/atoms/files/bobo_lo_russia_china_mars2023.pdf?mc_cid=be5ff0fac2&mc_eid=2af4a6f2fc

(注11)拙稿「プーチンと習近平の急所はどこにあるのか?(対談:小泉悠×熊倉潤)」小泉悠『終わらない戦争』文春新書、2023年、52-71ページ。

(注12)熊倉潤「中ロ蜜月の主導権――『一帯一路』構想と新疆問題のもたらす影響」松本はる香編『〈米中新冷戦〉と中国外交――北東アジアのパワーポリティクス』白水社、2020年、146ページ。

(注13)ウクライナ侵攻後の中露関係については、以下の拙稿参照。「ロシアと中国──両国の関係はウクライナ侵攻で変わるのか──」『大国間競争時代のロシア』研究会報告書、日本国際問題研究所、2023年、175-186ページ。<https://www.jiia.or.jp/pdf/research/R04_Russia/01-11.pdf>

(注14)中国中央電視台『新聞聯播』2023年10月18日、19分45秒付近。https://www.youtube.com/watch?v=2yvrWNla_Dg

(注15)中国外交部「習近平同俄羅斯総統普京会談」2023年10月18日。http://new.fmprc.gov.cn/web/zyxw/202310/t20231018_11163311.shtml
中国外交部「習近平会見俄羅斯総理米舒斯京」2023年12月20日。http://new.fmprc.gov.cn/web/zyxw/202312/t20231220_11207646.shtml

(注16)Bobo Lo,“The Sino-Russian Partnership,”p. 33.

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