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Commentary

高市政権下の日中関係
台湾問題発言がもたらした「新常態」

王広涛
復旦大学日本研究センター准教授
国際関係
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日中関係は「低強度の対立」を特徴とする一種の「新常態(ニューノーマル)」へと移行しつつある可能性がある。写真は中国政府による日本渡航自粛の呼びかけから約1カ月となる北京首都国際空港で、大型画面に表示された富士山のイラスト。2025年12月13日(共同通信社)
日中関係は「低強度の対立」を特徴とする一種の「新常態(ニューノーマル)」へと移行しつつある可能性がある。写真は中国政府による日本渡航自粛の呼びかけから約1カ月となる北京首都国際空港で、大型画面に表示された富士山のイラスト。2025年12月13日(共同通信社)

日中関係の緊張と社会認識の変化

政府レベルでの外交的対立は、比較的短期間のうちに両国社会、とりわけ国民の認識にも反映されるようになった。高市首相による台湾関連発言の後、日本の複数の報道機関が実施した世論調査によれば、「首相は発言を撤回する必要はない」と考える回答が半数を超えたと報じられている。高市内閣が比較的高い支持率を維持し、さらに衆議院選挙で勝利を収めた背景には、「中国要因」が一定程度作用した可能性も指摘できる。

もっとも、より長期的な視点から見ると、日本社会に蓄積されてきた排外的感情と今回の日中関係の悪化が相互に作用し、相乗効果を生んだ側面も無視できない。特に新型コロナウイルス感染症の世界的流行以降、日本国内では排外的言説や運動が徐々に可視化するようになり、とりわけ中国人に対する否定的感情が目立つようになったと指摘されている。

その背景にはいくつかの要因が存在する。一つは観光分野において訪日外国人の急増が地域社会に様々な摩擦をもたらしたことであり、もう一つは歴史認識、領土問題、安全保障といった分野における日中間の対立が社会心理にも影響を及ぼしている点である。このような文脈の中で、日本に在住する中国人や訪日中国人観光客が、排外的言説の主要な対象となる傾向が見られる。

2025年の参議院選挙および2026年の衆議院選挙では、在日外国人問題が重要な政治争点の一つとして浮上した。排外的立場を強く打ち出す政党である参政党が議席を大きく増やしたことも、日本社会の政治的空間における外国人問題の可視化を象徴する現象と言える。

日本における外国人、あるいは訪日外国人の中で中国人が占める割合は依然として最大規模である。そのため、排外的言説が外国人一般を対象とする場合でも、結果として中国人に対する影響がより大きくなる傾向がある。特に今回の日中関係悪化の文脈の中では、在日中国人や訪日中国人が社会的議論の中で主要な対象となる場面も見られるようになった。

例えば、日本政府は2026年度から外国人関連手数料の大幅な引き上げを検討している。具体的には、短期ビザの発給手数料を従来の3000円から15000円へ引き上げるほか、在留資格更新や永住申請の手数料についても増額が検討されている。これらの措置は、制度上はすべての外国人に適用されるが、結果として中国人に対する影響が特に大きくなる可能性がある。

短期ビザの例を挙げれば、2024年に日本政府が発給したビザは約700万件にのぼり、そのうち500万件以上が中国人向けであったとされる。しかも、その大部分は観光目的の短期訪問である。これに対して、韓国、台湾、香港など訪日者数の多い地域はすでにビザ免除措置の対象となっており、さらにタイやマレーシアといった一人当たりGDPが中国よりも低い国々も同様の免除措置を受けている。そのためビザ費用の引き上げは、制度上は中立的であっても、中国人旅行者に対する負担を相対的に増大させる構造となっている。

昨年11月の高市発言以降、中国政府は日本に渡航する自国民に対して日本では治安が悪化している等の注意喚起を行ってきた。一方、日本政府は短期ビザの発給手数料を大幅に引き上げた。二つの政策は異なる次元に属するものではあるが、結果として訪日中国人の減少という点で似た効果を生み出したと言えよう。

今回の日中外交摩擦において、中国政府は日本に対する対抗措置を打ち出したものの、中国国内では大規模な反日デモや暴動は発生していない。これは、2012年「釣魚島」(尖閣諸島)をめぐる「国有化」を契機とした反日抗議運動と比較すると、社会的反応の性質が大きく異なる点として注目される。

この背景については様々な解釈が提示されているが、筆者は中国社会における市民意識(民度)の変化も一つの要因として考える必要があると考える(編集部:関連記事として平井新「政治と消費を切り分ける市民のプラグマティズム」もご覧ください)。加えて、中国政府の対抗措置が比較的限定的かつ対象を絞った形で実施されている点も重要である。中国政府は最近、少数の日本企業に対する輸出管理措置を導入したものの、「精確な政策運用」を原則とし、軍事に関連しているリスクの高い企業のみを対象としている。つまり、このたびの措置では通常の経済・貿易関係への影響を最小限に抑えることが意図されている。

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