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Commentary

中国の現在地は日本の1974年か、それとも1993年か
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか①

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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中国のGDPの約3割に影響を及ぼす不動産市況の悪化が経済の「日本化」につながるのか。短期集中連載(3回)で論じる。写真は、建設が中断した大連市の高層マンション(筆者撮影)
中国のGDPの約3割に影響を及ぼす不動産市況の悪化が経済の「日本化」につながるのか。短期集中連載(3回)で論じる。写真は、建設が中断した大連市の高層マンション(筆者撮影)

 私は今年(2023年)8月下旬、コロナ禍明け後2回目の訪中をして深圳と広州を訪れたが、前回(3月)の訪中時に比べて中国経済の現状と前途に対する悲観的な声を多く聞いた。不動産バブルの崩壊はもはや誰の目にも明らかなようである。

 中国の不動産業の動向を測るバロメーターとして、一般には国家統計局が毎月発表する新築住宅の価格指数を見ることが多い。2023年8月の全国35都市(省都などの大都市)を見ると、1年前に比べ指数の上昇した都市が北京市や上海市など18都市、下落した都市は広州市や深圳市など17都市。これだけ見ると、はたしてバブル崩壊といえるのか首をかしげてしまう。ただ、現地で聞くと、「新築住宅価格は地方政府がコントロールしていて下げさせないが、値段はついても買い手がつかないこと(有価無市)が多い」という。

右肩下がりで減少している中国の新築住宅の販売

 たしかに、1~8月の期間について全国の新築不動産の販売額を見ると、2022年は2021年より28パーセント減少し、2023年は2022年より9パーセント減少と、まさに右肩下がりで縮小している(図1参照)。同じ期間について不動産の販売量で見ると、2022年は2021年より23パーセント減、2023年は2022年より15パーセント減と、これまた急に減っている。こんなに急に減ったのでは経営が苦しくなる不動産会社が相次ぐのも無理もない。

図1 住宅販売額(億元)

 こうして不動産バブルが急速に潰れていく中で、中国経済の前途に対して悲観的な見方が広がっている。いわく、中国経済の現状は、1990年代初めのバブル崩壊後の日本経済と同じであり、今後は日本のように長い低成長の時代に入るだろうとの見方である。

 ちなみに、日本の経済成長率は、1975~1990年は年率4.5パーセントの中成長だったが、1991~2000年には年率1.3パーセントへ大幅に減速し、その後も2001~2010年は年率0.6パーセント、2011~2022年も0.55パーセントと低迷が続いている。中国経済もこれから日本のように「失われた30年」の時代に突入するとの見方が広がっている。

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