Commentary
清華大学と中国経済に関する討論会を開催
五つのセッションで活発な議論を展開
2026年1月11日、中国・北京市の清華大学にて「世界の大変化のもとでの日中経済貿易関係と発展動向」と題する討論会が東京大学中国学イニシアティブと清華大学国情研究院の共催によって開かれた。以下では筆者の記録に基づき、討論会の概要を紹介する。なお、清華大学と東京大学(旧現代中国研究拠点、現在は中国学イニシアティブ)の討論会は、コロナ禍で日本と中国の往来が制限されていた2021年にオンラインで第1回を開催し、その後、年に1回のペースで継続し、約1年前には東京で開かれた(編集部:東京でのシンポジウムのプログラムはこちらをご覧ください)。
代表挨拶――今後の見通し
まず冒頭で胡鞍鋼氏(清華大学国情研究院名誉院長)から、最近刊行された『15-5と2035年の中国』という報告書について簡単な紹介があった。第15次5カ年計画は今年3月の全国人民代表大会で決定される見込みであるが、胡氏はGDP年率5%程度で安定的に経済を運営することが主たる課題になるだろうとの見通しを語った。
また私(丸川知雄)から日本側を代表して次のような挨拶をした。「世界各国が互いの主権を尊重し、貿易や直接投資を発展させるというグローバリゼーションがいま大きく揺らいでいる。経済関係は日中関係の重石だという言い方があるが、昨年11月7日の国会での高市首相発言以降、それも大きく揺らいでおり、日中関係の船が転覆する恐れがある。私たち日本の中国専門家は日中共同繁栄の現状を広く伝えることを通じて日中関係の安定化に貢献していく必要がある。」
第1セッション――企業のグローバル展開
第1セッションは企業のグローバル展開をテーマとした。八杉理氏(現代文化研究所上席主席研究員)から「日中自動車産業の成長と部品メーカーの海外・共存共栄戦略」と題する報告が行われた。近年、中国ブランド車が急成長し、2025年には日本ブランド車をグローバル販売台数で超える見込みである。中国では自動車産業にファーウェイ(HUAWEI)など異業種企業が参入し、ソフトウェア主導に変わることで多様なニーズに対応する車が開発され、海外市場での競争力を高めている。中国の自動車メーカーは東南アジア諸国への進出を強めており、日本メーカーの牙城を掘り崩しつつある。他方、日本の自動車部品産業は古くからASEANに生産基盤を築いており、中国メーカーとは第三国でサプライヤーを通じて協力できる可能性があると、中国、タイでのヒアリング調査を通じた事例で紹介した。
潘墨涛氏(武漢大学政治与公共管理学院副教授)からは「産業のグレードアップと企業海外進出:順徳の事例」と題する報告が行われた。広東省仏山市順徳区は380の村レベルの産業園があるなど民営製造業が非常に盛んな地域である。かつての郷鎮(ごうちん)企業が大手家電メーカーの美的(Midea)や格蘭仕(Galanz)などへ大きく発展するなか、建設用地がなくなった順徳から海外や国内他地域へ生産拠点が移動するケースも増えてきた。そうしたなか、美的は順徳の改造にリーダーシップを発揮し、順徳区の小さな町である楽従鎮を現代的に改造した。
第2セッション――バリューチェーンの再構築
第2セッションはバリューチェーンの再構築をテーマとした。大橋英夫氏(専修大学経済学部教授)から「『一帯一路』2.0下の日中経済関係:協力と競争」と題する報告が行われた。中国の「一帯一路」に関して日本企業と中国企業が第三国での協力を進めようとしたが、現状では余りうまくいっていない。貿易関係を見ると、日本から中国への機械輸出の半分を半導体製造装置が占めているのが特徴的である。アメリカの輸入先のなかでの中国のシェアは急落しているが、実は中国からアメリカへの付加価値輸出の25%が第三国を迂回(うかい)している。中国からASEANへフラットディスプレイパネルの工場進出が増えるなど、中国がASEANに対する投入財の供給国となっている。
高宇寧氏(清華大学公共管理学院副院長・副教授)からは「世界経済の変化のもとで上書きされる中国のグローバルバリューチェーン」と題する報告が行われた。米中貿易はトランプ関税によって間接輸出が増えたが、依然高水準を維持している。中国からASEAN、中南米、アフリカへの輸出が増え、昨年は1兆ドルもの貿易黒字となった。輸出政策を調整し、輸出時の付加価値税の還付はもうやめるべきである。輸出の多い太陽電池の還付率はゼロに、電池の還付率も9%から6%を経てゼロにする。貿易政策は貿易収益を中心目標に据えて調整すべきである。
第3セッション――不動産市場
第3セッションは不動産市場をテーマとした。まず私(丸川知雄)から「中国の都市発展の現状をどうみるか:日本との比較」と題し、不動産バブル崩壊に苦しむ中国の現状と戦後日本の都市発展との比較を行った。人口の都市化率を見ると、中国の都市発展の現状は1990年、つまりバブルのピーク時の日本よりもむしろ1960年代の日本と同水準である。実際、広州市や深圳市の現状は他地域から労働力が流入して過密に悩んでいた1960年代の東京や大阪と似ている。この2都市では今後、人口が都心部から郊外へよりよい住環境を求めて移転していく日本の1970年代、80年代のような発展が見込める。一方、北京市と上海市は戸籍制度と高い生活費のゆえに人口の純流入が過去10年余り止まっている。人口はすでに都心部から郊外へ移動しており、このままだと遠からず住宅需要の飽和に至る。この2都市は人為的な流入制限を緩和してもっと多くの流入人口を吸収すべきであろう。
周紹傑氏(清華大学国情研究院院長・教授)からは「中国の不動産市場の調整、影響、展望」と題する報告が行われた。中国の不動産業は1998年から市場化が始まり、2003~2011年は急速な拡張と最初の調整、2012~2022年は調整と刺激を繰り返し、2022年からは下降線にある。不動産投資がGDPの成長に対してマイナスの影響を与えている。住宅購入者によるローン返済が滞り、銀行による住宅の差し押さえが増えている。売れ残り不動産の面積は2024年には全国で7億㎡にも達した。ただ、中国は鎮(小都市)の人口が都市人口に発展していく可能性がある。また、不動産サービス業は未発達である。
第4セッション――人口高齢化と経済成長
第4セッションは人口高齢化と経済成長をテーマとした。岡本信広氏(大東文化大学国際関係学部教授)から「中国の人口転換と経済成長のダイナミクス」と題する報告が行われた。中国は1982年から2010年代初めまで人口ボーナスを享受し、労働力の減少は2017年以降になって表れた。一方、高齢化のもとでの貯蓄率の増加と人的資本の向上という第二の人口ボーナスを模索する段階にある。都市化によって集積の経済を実現できれば高齢化によるマイナスの影響を緩和できる。また、社会保障制度の不全は第二の人口ボーナスの獲得を妨げるので制度の改善が必要である。
劉生龍氏(清華大学公共管理学院教授)は「中国の人口高齢化と高齢産業の潜在力」と題する報告が行われた。中国では2000年に8人で1人の高齢者を養う構造だったのが、2050年には2人で1人の高齢者を養う構造になる。高齢者人口比率が7%から14%に上昇するのに日本では27年かかったが、中国は22年しかかからず、急速に高齢化が進んでいる。ただ、見方を変えれば中国ではこれから高齢産業の急成長が見込める。高齢者の消費は2024年には7.3兆元でGDPの5.4%だったが、2030年にはGDPの10%にあたる24.4兆元へ拡大するだろう。健康管理や医療・介護に加え、高齢者向けの観光業やサービス業も伸びる可能性がある。
第5セッション――人工知能
第5セッションは人工知能(AI)をテーマとした。華金玲氏(慶応義塾大学総合政策学部訪問講師)からは「中国のイノベーションと超スマート社会:5G、AI、ヒューマノイド産業の発展」と題する報告がなされた。中国の5Gネットワークは2019年末に50都市でスタートし、2025年11月には全国に483万基の基地局を敷設するに至った。2030年には6Gの商用化が始まる。AIに関しては2017年に新世代AI発展計画が打ち出され、その後2023年までの間に地方政府が823の政策文書を出すなど地方主導による積極的展開が行われている。ロボットに関しては、中国にはヒト型ロボットを開発する企業がすでに150社以上ある。UBTechのロボットはフォックスコンやBYD(比亜迪)の生産ラインで働き始め、美的の生産ラインには腕が6本ある「美羅U」ロボットが投入されている。ヒト型ロボット開発には国家発展改革委員会も政府予算から50億元の投入をする。2025年には北京で世界ロボット大会が開催され、技術開発を刺激した。
魯鈺鋒氏(LogosData CEO)からは「次世代のエージェントを定義する:『人工知能+』の革新的応用実践」と題する報告が行われた。清華大学で経済学を専攻した卒業生である魯氏は、LogosDataを創業してAIを使って会社の法務、税務、財務に役立つシステムを開発している。中国はAI用ICではアメリカのNVIDIA(エヌビディア)に匹敵するメーカーはないが、システム設計の工夫により、DeepSeekのような成果を生んだ。中国の優位性は国内の社会経済の規模が大きく、そこで集めたデータをAIの訓練に使えることである。AIエージェントとは、人間が訓練させる伝統的AIと違って、目標を与えれば自分で自分を訓練するAIだ。AI税理士やAI弁護士が自ら判例を学んでいくようになるだろう。しかし、AIに人間に代わって意思決定をさせることはできない。
総合討論――活発かつ和気あいあいと
その後の討論では、中国の国有企業は2001年の時点では輸出の半分を占めていたが2024年には8%に落ちたこと、不動産投機には参入していないが、一帯一路に関わる海外でのインフラ建設では主力の位置を占めていること、2025年に1兆ドルもの貿易黒字になった理由として規模の経済や学習効果、産業集積の効果があるが、同時に内需不足と過剰生産の裏返しでもあること、中国国内のデフレ問題、などについて活発かつ和気あいあいとした議論が行われた。