Commentary
中国経済の次の5年へ向けた展望
第15次5カ年計画に関する中国共産党中央の提案
ただ、このセクションはあくまで科学技術政策を取り扱うものであり、その担い手は科学技術部であるため、こうしたアグレッシブな目標を達成する手段はあくまで科学技術政策の領域に限られると考えられる。例えば、「新型挙国体制」と言うが実際には政府の傘下にある中国科学院などの研究機関に研究プロジェクトを立ち上げることが具体的な施策となるだろう。提案ではまた、科学技術イノベーションの主体としての企業のポジションを強め、企業の連合体を作って国家の科学技術プロジェクトを担わせるとしており、政府が音頭をとって実際の仕事は企業にやらせようという考えのようである。そして、政府は企業の所得から研究開発費用を控除できる比率を上げるとか、政府調達で自主イノベーション製品の買い上げを強めるといった施策によって政府の指し示す産業技術の課題に企業を誘導するつもりのようである。
また、2025年8月に国務院が公布した「人工知能プラス行動」、すなわち人工知能を科学技術、産業発展、消費の質向上、民生福祉、ガバナンス能力、グローバル協力の各方面で活用していこうという政策もこの科学技術政策のセクションに収められている。
以上のように、科学技術政策はアグレッシブで、「自主」を強調するなどナショナリスティックであり、控えめで総花的でグローバル分業に言及する産業政策とは好対照を見せている。果たして2026年3月に全国人民代表大会で出てくる第15次5カ年計画ではどちらが優位になるのか、あるいは両論併記となるのかは見どころである。
4.産業政策の手段
中国の産業政策の手段は、1990年代までは保護関税がメインであった。しかし、2001年に世界貿易機関(WTO)に加入して以降、WTOの内外無差別の原則があるため、公然と国産品を優遇することは難しくなった。ただし、政府調達に関しては国産品優遇が行われている。特に医療機器に関しては、中国の大病院のほとんどが公立であるなかで、政府が国産医療機器を優先的に買うように求めているため、国産化の促進にはかなりの効果を上げているようである。
2010年以降、産業政策の実施手段として重要となったのが、中央政府や地方政府のもとに設置されている投資ファンドである。特に、2014年に新しい半導体産業政策とともに設立された国家IC産業投資基金は第1期の資本金が987.2億元、第2期の資本金が2041.5億元(予定)と規模が大きい。また、北京市や上海市などのもとにも半導体産業への投資を専門とする投資ファンドが設立されている。
ただし、特定の産業にターゲットを絞った投資ファンドというのは管見の限り半導体産業のもののみである。ほとんどの投資ファンドは、「中小企業」、「戦略的新興産業」、「政府と企業の合作」といった抽象的なミッションを掲げたり、あるいは地方政府傘下のファンドは地方名だけ掲げて特にミッションを明示しなかったりというケースが多い。そして、中国にとって戦略的に重要だと思われる分野においてもこうした政府系投資ファンドの投資が特に活発というわけでもない。