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Commentary

中国経済の次の5年へ向けた展望
第15次5カ年計画に関する中国共産党中央の提案

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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地方政府が実施している産業振興の方策として特に効果的だとみられるのが、同業や関連業種の企業を誘致して産業クラスターを形成する政策である。写真は杭州市の宇樹科技(Unitree)の本社で、ヒト型ロボットを操作して驚く人たち。2025年8月25日(著者撮影・提供、以下も同じ)
地方政府が実施している産業振興の方策として特に効果的だとみられるのが、同業や関連業種の企業を誘致して産業クラスターを形成する政策である。写真は杭州市の宇樹科技(Unitree)の本社で、ヒト型ロボットを操作して驚く人たち。2025年8月25日(著者撮影・提供、以下も同じ)

さらに、「戦略的新興産業」への言及がとても淡泊になった。戦略的新興産業を振興するという政策は2010年に打ち出され、それ以後、第14次5カ年計画まではそれが「新世代IT、バイオ、新エネルギー、新素材、ハイエンド設備、新エネルギー自動車、航空・宇宙、海洋設備」を指すという定義には揺らぎがなかった。ところが、このたびの提案では「戦略的新興産業のクラスターを発展させる」という後退した言い方になり、その中身として「新エネルギー、新素材、航空・宇宙、低空経済等」を挙げるのみとなっている。つまり、戦略的新興産業のリストから新世代IT、バイオ、ハイエンド設備、新エネルギー自動車、海洋設備が外れ、代わりに低空経済(高度1000メートル以下の低空域を活用した経済活動)が入ったようにも見受けられる。それはこれらの産業育成が失敗したからというわけではなく、むしろIT、新エネルギー自動車、バイオなどは急成長したからもう政府が特段にそれを後押しする必要がなくなったということかもしれない。

一方、第14次5カ年計画では「前向きに構想する」とされていた「未来産業」が、このたびの提案では「前向きに戦略配置(「布局」)する」と、少し政策の強度が強められた印象がある。具体的には量子技術、バイオ製造、水素エネルギー・核融合、ブレインマシンインターフェース、エンボディドAI、6Gが挙げられており、こうした分野でのベンチャー企業の創業と発展を支援するとしている。

以上のように、産業政策のセクションは第13次、第14次の5カ年計画に比べてだいぶ淡泊になった。ここで従来型産業、サービス業、インフラにも言及し、いろいろな産業分野に総花的に言及するというのは従来の5カ年計画にも共通しているのだが、第13次、第14次ではハイテク産業(戦略的新興産業)振興が強調されていたのに対し、このたびの提案では従来型産業が最初に上がっており、その分ハイテク産業への傾斜が弱まった。

3.アグレッシブな科学技術政策

ところが、次の科学技術政策のセクションを読むと、産業政策のセクションとは逆にハイテク産業発展へのアグレッシブな姿勢が見られる。特に産業の核心技術の獲得に対して「新型の挙国体制で臨み、常識を超えた(「超常規」)措置を採る」と異様に強い言葉が使われている。核心技術として挙げられているのは「集積回路、工作機械、ハイエンド計器、基礎ソフト、先進素材、バイオ製造」だとされている。ここに挙げられている分野はいずれも産業政策の対象となる分野であり、これらの核心技術を開発する作業は科学というよりも産業技術の分野の仕事である。産業政策のセクションでも取り上げられていた先進素材(新素材)、バイオ製造が含まれていたり、産業政策ではもともと「新世代IT」に含まれていた集積回路が含まれていたりなど、科学技術政策が産業政策の領域を侵食しているかのように見える。

科学技術の「自立自強」、「自主イノベーション能力」の強化、科学技術の基礎条件における「自主保障」の強化など、自国が主導権を持つことを意味する「自主」という言葉が多用されるのもこの科学技術政策のセクションにおいてである。国際分業への参加を前提としていた産業政策のセクションとはかなりトーンが異なっている。

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