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Commentary

中国経済の次の5年へ向けた展望
第15次5カ年計画に関する中国共産党中央の提案

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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地方政府が実施している産業振興の方策として特に効果的だとみられるのが、同業や関連業種の企業を誘致して産業クラスターを形成する政策である。写真は杭州市の宇樹科技(Unitree)の本社で、ヒト型ロボットを操作して驚く人たち。2025年8月25日(著者撮影・提供、以下も同じ)
地方政府が実施している産業振興の方策として特に効果的だとみられるのが、同業や関連業種の企業を誘致して産業クラスターを形成する政策である。写真は杭州市の宇樹科技(Unitree)の本社で、ヒト型ロボットを操作して驚く人たち。2025年8月25日(著者撮影・提供、以下も同じ)

はじめに

2025年10月下旬に開かれた中国共産党中央委員会の総会において、次の5カ年計画(第15次5カ年計画)に対する共産党中央の提案が採択された(注1)。2026年3月にはおおむねこの提案に沿った5カ年計画が公布される見込みである。総会ののち約3週間にわたって中国各地で、この総会の「精神」を伝達する講演会が開催された。私も清華大学公共管理学院にて周紹潔教授による解説を聞いた。本稿では周教授の解説および私自身による提案の解読に基づいて、今後の5年間の中国経済の行く末を考察する。

中国の目下の最大の国家目標は「2035年までに経済力、科学技術力、国防力、総合国力、国際影響力において大きく飛躍し、一人あたりGDPで中程度の先進国のレベルに到達すること」である。アメリカの4倍以上の人口を持つ中国がそのレベルに到達したら、当然国全体のGDPではアメリカを上回って世界一になるはずであるが、そうした見通しを公然と語ることはアメリカを刺激するので、5カ年計画など中国の公式な政策文書でそのことに言及することはない。

この「中程度の先進国のレベル」とはどの程度なのかは明らかではないが、周教授の見立てでは一人あたりGDPが2万ドル以上程度だという。2024年の中国の一人あたりGDPは1万3303ドルなので、それを年率3.8%のペースで増やしていけば達成できる。国全体で見ると、人口が減少していくので、2025年から2035年までGDPを平均3.5%程度で成長させることができれば達成できる。最近の実績は5%程度の成長なので、目標が高すぎるということはない。

1.内需拡大の方策

問題は国内需要が伸び悩んでいることである。2024年はGDP成長率5.0%のうち内需(最終消費と資本形成)による寄与度は3.5%で、外需(純輸出)が1.5%だった。つまり、内需だけでは3.5%しか成長できず、目標達成にぎりぎりの水準だということである。2025年も貿易黒字が1兆ドルを超える見込みであり、内需の不足を外需で補っている状況が続いている。しかし、これでは欧米のみならず世界の多くの国との貿易摩擦を引き起こすであろう。

内需の拡大は第14次5カ年計画(2021~2025年)においても重要な課題の一つとして挙げられていた。しかし、同計画では「供給側の構造改革を進めて、新需要を創出する能力を高めなければならない」と、結局は供給側(産業)の課題に回収されてしまっていた。

一方、このたびの第15次5カ年計画に対する提案では、内需拡大がいっそう強調され、特に消費の振興が強く打ち出されている。具体的には、サービス消費の拡大、新たな消費のシーンを作り出す、国際消費中心都市を育てるなどと書いているが、どのようにこれを実現するのかは明らかではなく、具体性に乏しい提案だと言わざるを得ない。ただ、財政支出に占める公共サービス支出を拡大すること、直接消費者の懐に届く政策として政府の資金をより多く民生・社会保障に使うとしている点は具体的な提案であると評価できる。

さらに、社会政策のところで出てくる以下の措置はいずれも消費拡大につながるものである。第一に、人口政策の箇所では育児手当の支給、および育児費用を個人所得税の所得計算から控除することにふれている。第二に、第14次5カ年計画では「介護保険制度を慎重に形成する」としていたのが、このたびの提案では「介護保険を推進する」とより積極的になっている。第三に、都市と農村の住民基礎年金を徐々に引き上げるとしている。第四に、低所得層の収入を効果的に引き上げ、中所得層を拡大するとしている。

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