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Commentary

エネルギー消費が巨大化した中国の脱炭素の行方
原油も石炭も世界一の輸入量、CO2排出量も最大

堀井伸浩
九州大学経済学研究院准教授
経済
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1世紀にわたる露天掘りにより、石炭を掘り尽くし、地上に巨大な穴が残った遼寧省阜新市の炭鉱(2014年8月、丸川知雄撮影)
1世紀にわたる露天掘りにより、石炭を掘り尽くし、地上に巨大な穴が残った遼寧省阜新市の炭鉱(2014年8月、丸川知雄撮影)

 中国は、1993年に石油製品の輸入が純輸入に転じ、1996年には原油についても純輸入となった。それ以来、国際エネルギー問題の台風の目となっている。

 原油は純輸入に転換してから輸入量が急増、2022年には5億820万トンで世界の輸入量の23.9パーセントを占めるに至っている。主要エネルギーである石炭についても2億9320万トンを輸入、世界の輸入量の18.0パーセント(熱量ベース)に相当する。液化天然ガス(LNG)の輸入も近年急速に増加し、932億立方メートルで対世界シェアは17.2パーセントであった(いずれも2022年)。原油も石炭も世界最大の輸入量であり、LNGは2022年に価格が高騰したことで輸入量は大幅に減少したが、その前年2021年は日本を上回る世界第1位の輸入量であった。

 中国は2000年代以降、エネルギーの輸入量を突然急増させることがあり、それが価格上昇、国際エネルギー市場に波乱を巻き起こしてきた。そうした市場行動の背景にあるのは、巨大な規模に成長した中国のエネルギー消費量である。

世界市場を振り回す中国のエネルギー消費

 下の図は、世界でエネルギー消費量の多い上位10カ国について、利用しているエネルギー源別に消費量を示したものである。棒グラフは2022年のエネルギー消費量、折れ線グラフは2000年の消費量を示している。

 一見してわかるように、中国と米国、上位2カ国の2022年におけるエネルギー消費量は圧倒的に巨大である。第3位以下、とりわけ第5位のわが国以下の国々と比較すると、消費量の差はあまりに大きく、すべて足し合わせても中国一国の消費量に及ばない。さらにいえば、この図に記載されない第11位以下の国々は180カ国余り存在するが、その国々のエネルギー消費量を加えても米中の消費量の78.7パーセントにすぎないのだ。

 世界トップ10カ国のエネルギー消費(2022年および2020年)

(出所)BP [2023] Statistical Review of World Energy, Home | Statistical Review of World Energy (energyinst.org)より作成

 この点を踏まえれば、国際エネルギー市場には中国と米国という巨大なクジラが2頭存在し、小魚にすぎない他の国々はクジラの動きで生じる大波に翻弄される、という構造であることが理解できよう。

 例えば石炭の場合、中国の石炭輸入量は世界最大といっても、消費量からみればその6パーセントにすぎない。国内の需給動向から消費量の数パーセントの幅で輸入量が増減することは通常起こりうることだが、中国の場合、消費量の2パーセントが輸入に回った場合でも1億トン程度の輸入増となる。これは世界の石炭貿易量の6パーセントに相当し、かなりのインパクトを市場に与える。こうした構図から、2000年代以降、巨体に成長した中国のエネルギー消費が世界のエネルギー市場を振り回す事態が頻発してきたのであった。

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