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Commentary

中国のコンテンツ産業の発展と近年の特徴
文化・関連産業の中で高まる比重

中川涼司
立命館大学国際関係学部特命教授
経済
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中国のコンテンツ産業は文化・関連産業の中核的地位を担うようになり、市場や投資を牽引している。写真は北京のポップマートの店舗に並ぶ、中国発のキャラクター「ラブブ」のぬいぐるみ。2025年5月27日(共同通信社)
中国のコンテンツ産業は文化・関連産業の中核的地位を担うようになり、市場や投資を牽引している。写真は北京のポップマートの店舗に並ぶ、中国発のキャラクター「ラブブ」のぬいぐるみ。2025年5月27日(共同通信社)

(4)正規化の流れ

中国でのコンテンツ事業展開のための大きなネックとして海賊版の問題があった。『コンテンツビジネスin中国』(翔泳社、2007年)は、現在においても中国でコンテンツビジネスを志す人の必読文献である。著者の青崎智行・現白鴎大学経営学部教授は、シンクタンクでのメディアコンテンツ事業経験ののち、経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課の課長補佐も務め、中国でのコンテンツビジネスにも大きく関わった。同書はデジタルコンテンツ協会とともに執筆されたものだが、その大きなテーマが海賊版への対応であった。著作権を守るための防衛策は当然採られるべきであるが、それとともにコンサートなどのリアルな展開を進めるなど諸対策を提言していたのが印象的であった。

JETRO上海のレポートが指摘するように海賊版は根絶されたわけではない(日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所、2024)。しかし、その重みは大きく変わっている。諸外国からの批判に加え、国内IP(知的財産)の保護のために海賊版の対策が進み、また、消費者の所得水準の向上で正規上映・正規版を利用・購入できる層が増えてきた。正規利用が進めば価格も下げられるためにさらに正規利用が増えた。当初は海賊版が横行していたオンライン配信も、事業を安定的に拡大するには正規ライセンスを獲得する必要があるため、正規ライセンスの獲得に向かった。ただし、土豆網などは正規ライセンス獲得のための投資に耐えられず、優酷網(YOUKU)との合併を余儀なくされた。中国ではもっぱら海賊版を通じて知られていた「千と千尋の神隠し」が日本の公開から18年遅れの2019年に中国で初公開され、かつ大ヒットとなったのはエポックメイキングなことであった。

(5)グッズブーム、二次創作品ブーム

コンテンツ(IP)の二次利用としてグッズ領域があることは、日本ではすでに確立されている。それゆえ、グッズ化しやすいコンテンツの製作委員会に玩具やグッズの会社が参画することが常態化している。

中国でもこの二次利用の拡大が課題とされてきたが近年、グッズブームが到来し、マルチユースの領域が拡大している。

社会科学文献社では各産業に関わるレポートをブルーブックス(藍皮書)のシリーズとして刊行しているが、最近ではグッズ(潮流玩具:「潮玩」=Pop Toy)とアニメ産業に関するレポートを刊行し始めた(中国社会科学院財経戦略研究院、2024)。それによるとグッズ市場は2015年の63億元から2025年の926億元(予測)へ急速に拡大している。

グッズ市場の内訳をみると、ブラインドボックスが28%、建築模型が23%、フィギュアが16%、人形が10%、芸術玩具が9%、その他が14%となっている(2021年)。

また、このようなグッズ市場の隆盛は、メーカーが正規ライセンスを得て生産するものに限らない。中国でもさかんに行われるようになっているコミックマーケット(コミケ)などでは、漫画と並んで原作をアレンジした二次創作によるグッズの販売が行われる。これらは独自の流通市場となる 。

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