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Commentary

中国のコンテンツ産業の発展と近年の特徴
文化・関連産業の中で高まる比重

中川涼司
立命館大学国際関係学部特命教授
経済
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中国のコンテンツ産業は文化・関連産業の中核的地位を担うようになり、市場や投資を牽引している。写真は北京のポップマートの店舗に並ぶ、中国発のキャラクター「ラブブ」のぬいぐるみ。2025年5月27日(共同通信社)
中国のコンテンツ産業は文化・関連産業の中核的地位を担うようになり、市場や投資を牽引している。写真は北京のポップマートの店舗に並ぶ、中国発のキャラクター「ラブブ」のぬいぐるみ。2025年5月27日(共同通信社)

中国コンテンツ産業の近年の特徴

(1)大規模投資・大規模回収

中国コンテンツ業界において大規模投資・大規模回収のモデル(大規模リクープモデル)が成立している。かつてのテレビ向けアニメを補助金頼みで制作していたモデルとは大きく異なっている。とくに、2025年1月29日から6月30日までのロングランで世界のアニメ映画史上最高となる154.46億元の興行収入をあげた「ナタ 魔童の大暴れ」(《哪吒之魔童閙海》、ナタ2)は制作費の推計は各報道によってまちまちだが5~10億元程度が投じられたと推計されている。

同作の主たる投資を行ったのは光線伝媒(CEO王長田)と可可豆動画(CEO楊宇)の連合グループ5社である。CEO王長田の上海電影節での言明だと興行収入100元のうち、制作・投資者に回ってくるのは38・39元、配給費用を除くと、33元である。限界費用が下がっていくことを考えると単純な掛け算は妥当ではないかもしれないが、その計算で154.46億元から計算すると約50億元であり、制作費は完全に回収できている。ただ、『ナタ1』(2019年)並みの興行収入約50億元だと16.5億元、『姜子牙』(2020年)並みの興行収入約15億元だと約5億元となり、制作費のかけ方と興行収入次第では回収できない可能性はある。

(2)オンライン配信の比重増と多様な投資回収方法

かつて中川(2023)が指摘し、藤田(2025)が詳細に明らかにしたとおり、テレビアニメからネットアニメへの移行の流れは明確である。アニメを劇場公開した後に、オンラインで公開するというのではなく、当初からオンライン配信目的での制作がされるもので、劇場公開型とは異なる回収モデルとなる。ただし、制作費が高騰する一方で、劇場公開型のように短期間大規模回収が難しいことからプラットフォーム(テンセントなど)からの委託制作となることが少なくない。

(3)グローバル・バリュー・チェーンの展開と国内回収構造のさらなる展開

中国の不動産会社、万達集団(ワンダグループ)は世界の映画館チェーンを次々と買収し、一時は世界最多の映画館を傘下に置いていた。ただし、結局はすべて売却してしまったが。また、万達集団は制作面でもゴジラやキングコングなどの制作を行うレジェンダリー社を買収した(中川2019、2021b、2025a)。中国のハリウッドへの影響は強まっている。ゲーム産業ではもっと展開が大きい。テンセントのシンガポールとオランダを拠点にする「レベル・インフィニット」では傘下のゲーム会社が開発したソフトを世界各地で提供する。日本市場でも中国の点点互動(北京)科技(センチュリーゲームズ)の「ホワイトアウト・サバイバル」やmiHoYoの「原神」などが販売額上位に入っている。

しかし、その一方上記の「ナタ 魔童の大暴れ」(ナタ2)の世界での興行収入21.5億ドルのうち、18億6245万9345ドルは中国国内でのもので、香港732万7452ドルも足せば、87%は中国国内となる 。ストーリー的にも中華系の以外の人にはわかりにくい展開であり、基本的に国内で投資回収を完結させる流れになっていると思われる(編集部:関連記事として丸川知雄「『ナタ 魔童の大暴れ』の成功とその寓意」もご覧ください)。

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