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Commentary

中国のコンテンツ産業の発展と近年の特徴
文化・関連産業の中で高まる比重

中川涼司
立命館大学国際関係学部特命教授
経済
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中国のコンテンツ産業は文化・関連産業の中核的地位を担うようになり、市場や投資を牽引している。写真は北京のポップマートの店舗に並ぶ、中国発のキャラクター「ラブブ」のぬいぐるみ。2025年5月27日(共同通信社)
中国のコンテンツ産業は文化・関連産業の中核的地位を担うようになり、市場や投資を牽引している。写真は北京のポップマートの店舗に並ぶ、中国発のキャラクター「ラブブ」のぬいぐるみ。2025年5月27日(共同通信社)

東アジアでコンテンツ産業が産業政策の対象として注目されている。

コンテンツ産業を産業政策によって包括的に支援する口火を切ったのは韓国だろう。1998年2月5日の金大中大統領の就任演説では世界は知識情報社会へと移行しているとし、「文化産業は21世紀の基幹産業」とした。この方針に基づき、1999年に文化産業振興基本法が制定された。同法は文化産業の振興を目的とし、文化産業団地や施設の造成を支援する法的根拠となった。

韓国、日本、中国におけるコンテンツ産業振興政策

法律制定後、2003年までに5000億ウォン(約498億円)の文化産業支援を行う文化産業振興基金が設立された。2001年の改正で、デジタルコンテンツが政策の中心に据えられ、文化コンテンツ振興院が設立された。2024年の文化産業振興関連予算は6兆9796億ウォン(約700億円)に達した。韓国のコンテンツ産業は当初は日本をモデルにしたものが少なくなかったが、その後それを超えて、日本に「韓流」として多く流入してきた。ドラマや音楽では韓流が日本や中国などアジアを席捲(せっけん)した。漫画、アニメやゲームなどではまだ日本の国際競争力が強いが、ネット漫画やショートアニメ、ネットゲームなどの領域では韓国の影響力が強まっている。

日本の工業製品を中心とする輸出競争力が衰えていく中で、日本政府はようやくコンテンツ産業の重要性に気づく。内閣府知的財産戦略推進事務局が2010年より「クールジャパン戦略」を推進し始め、2013年に株式会社海外需要開拓支援機構法(クールジャパン機構法)に基づき、政府と電通などの官民ファンドとして株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)を設立した。

クールジャパン機構は成果もあげたが課題も少なくはなかった。2017年12月発足の「知的財産戦略ビジョンに関する専門調査会」では、2025年~2030年を見据えた知的財産戦略ビジョン策定を検討することとなり、10カ国の調査に基づき、2019年に『クールジャパン戦略の推進に資する成功事例等に関する分析・調査 最終報告書』を公開した。そこでは、具体事例として①コンテンツ、②ファッション、③日本食&酒、④日本製品/サービス、⑤観光地が事例調査された。①のコンテンツでは、「人生がときめく片付けの魔法」、「生きがい」、「小確幸」、「テラスハウス」、「シティ・ポップ」、「深夜食堂」、「孤独のグルメ」といったコンセプトについてのインパクトが確認されている。

ただし、クールジャパン機構は想定した収益があがらず、2021年度末時点の累積赤字が309億円に上ったことから、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で早急な体質改善を求める意見が出た。元幹部によるセクハラ行為や、不正アクセスによる情報漏洩(ろうえい)の可能性もこの動きに輪をかけた。経済産業省はこの中で政策を仕切り直し、エンタメ・クリエイティブ産業の現状と振興の意義を確認し、政府戦略に記載された取組の方向性の実現に向け、「官民で注力するアクションプラン」をまとめるべく、有識者や経済界、実務者による研究会として2024年11月にエンタメ・クリエイティブ産業政策研究会を発足させた。これまで中心であった映像・音楽だけでなく、ゲーム、アニメ、漫画などの分野も意識しつつ、エンタメ・クリエイティブ産業戦略を策定し、公表することとした。2025年4月には「エンタメ・クリエイティブ産業戦略中間とりまとめ」(案)も示された。

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