Commentary
中国の所得再分配は格差是正にどのくらい効果があるか
中国家計所得調査(CHIP)2018に基づく結果

また、所得再分配の効果が所得階層により顕著に異なっていることも、図3cから見て取れる。同図は移転所得すなわち(可処分所得-当初所得)の可処分所得に対する比率を農村都市別、所得階層別にみたものであるが、ここから明らかなように、低所得層ほど再分配の恩恵が相対的に大きい。例えば、年間可処分所得1万元未満の農村世帯では当初所得に比べ可処分所得が46.9%上昇し、都市世帯のそれも43.3%増となっている。ただ、CHIP2018の中には拠出(税金等)の情報がなく、所得の高い階層にも正の再分配効果が算出されているという問題点が指摘できる。通常、所得税等の拠出は高所得層ほど多く、退職金等の受給を上回った場合、移転所得の可処分所得に対する比率が負の値を呈するからである。

もう1点注意すべきは、国有企業の経営利益の一部を社会保険基金に組み入れ、国有企業の株券の一部を社会保険機構が保有し、その配当を社会保険基金に入れる制度が2010年代後半から構築されつつあるという点である。税制や社会保障制度と並ぶ中国特有の再分配制度だが、それにより、結果的に党政府機関等の特権階級は退職後に高い退職金を受給することが可能となっているのであろうと思われる。
所得再分配による格差、貧困の是正効果
最後に、再分配による是正効果をジニ係数、貧困率という統計指標を用いて定量化する。
ジニ係数は所得や財産の不平等状況を表す統計指標として広く使われ、通常、0-1の値を取る。ジニ係数が0に近づくほど格差が小さく、1に近づくほど格差が大きいことを意味する。表1はCHIP2018に基づいた、所得再分配による格差の是正効果を表している。農村都市別に可処分所得、当初所得のジニ係数を算出し、(当初所得ジニ係数-可処分所得ジニ係数)*100/当初所得ジニ係数、という計算式で「再分配による改善度」が得られる。

注:(1)当初所得=給与所得+経営所得+財産所得。(2)改善度=(当初所得ジニ係数-可処分所得ジニ係数)/当初所得ジニ係数。
全体の可処分所得のジニ係数は0.4555であり(国家統計局が全国サンプルを用いた推計結果(0.468)とほとんど同じ)、当初所得のジニ係数0.5373より小さい。退職金、医療の現物給付等による所得格差の是正効果がある、ということである。厚労省の手法を基に再分配による改善度を求めると、15.2%の是正効果が確認できる。日本では所得再分配による改善度が2021年に3割を超えていることを考えると、是正効果は日本に比べて小さい。ちなみに、2021年の厚労省調査では当初所得に基づいたジニ係数が0.57、再分配所得のジニ係数が0.38となっている。再分配による改善度が大きいだけでなく、再分配後の格差も中国に比べて小さい。
農村、都市別にみると、再分配による是正効果も確認でき、それぞれの改善度が全体よりも大きいことが分かる。農村におけるその改善度が21.2%に達していることは特筆に値する。2000年代以来の様々な格差是正政策は一定の効果を生み出しているといえよう。