Commentary
世界人工知能大会(WAIC)でみた中国AIの現状
実用化へ邁進する技術開発

アメリカはエヌビディアのGPUは中国AIの発展にとってのチョークポイントだと認識しており、それゆえに輸出規制によって中国のAIの発展を止められると思っている。しかし、このたびの世界人工知能大会の展示をみて、その状況はそう長く続かないのではないかと思わざるをえなかった。AI向けのICチップやそれを搭載したAIサーバーなどを展示している中国企業が数多くあったためである。
コンピュータの心臓部も独自生産が進む
特に参観者の注目を集めたのがファーウェイのAIコンピュータクラスター、「昇騰384超節点(Atlas900 A3 SuperPoD)」であった(表紙写真)。これにはファーウェイが自社開発した昇騰NPU(Neural Network Processing Unit)384個、鯤鵬CPU(Central Processing Unit)192個が搭載されており、大言語モデルをこれまでのAIクラスターの2~3倍の速さで動かすことができるという。
沐曦集成電路(上海)股份有限公司(METAX)は2020年に創立されたばかりの若い企業であるがGPU設計経験者を集めて、各種のGPUを生産している。また、自社GPUを搭載したサーバーやデータセンターも作っている。
一方、中昊芯英はディープラーニングの効率化に有効なTPU(Tensor Processing Unit)を生産している。グーグルでTPUの開発にあたっていた人物が独立して、他社の経験者を集めて2018年に創設した。北京算能(Sophgo)もTPUを生産する企業で、それを搭載したサーバーなども生産している。
また、自動車メーカーの吉利汽車は子会社億咖通(ecarx)でスマートコックピットや自動運転・ADAS(先端運転支援システム)などに用いるAIチップを生産している。
今回の大会に出展した企業の大半が中国企業であったこと(注1)が如実に示しているように、中国はすでにAIの実用化における大市場になっており、AIチップやAIサーバーに対する膨大な需要が発生しつつある。そして、そのチャンスをつかもうとしている中国のICメーカーも少なくない。
AI用ICとして、これまではエヌビディアのH100/A100が多く使われてきた。中国のAI開発者たちの間でも使い慣れたエヌビディア製ICに対する信頼が強く、そのため、中国には輸入できないはずのH100/A100などが町中で公然と売られていたりもする(写真5)。

しかしAIにはGPUが最適かどうかについてはAI業界のなかで結論が出ていないようである。今回の展示でもAI計算用のICとしてGPU以外にNPUやTPU、さらに光ICやそれを使った計算カードを展示する曦智科技という会社もあった。
輸出規制で得をするのは誰か?
そのような状態のもとで、アメリカ政府がアメリカ企業から中国へのAIチップ供給の蛇口を閉じれば、それはアメリカの意図とは裏腹に、中国のICメーカーに対する幼稚産業保護政策として作用し、中国の国内需要のより多くが国産ICに向かうことはほぼ確実だと思われる。それによって今回展示をしていた中国のICメーカーのいずれかがAI計算用ICのシェアをエヌビディアから奪う展開も想定される。アメリカ政府による輸出規制は中国のAIの発展を抑えるよりも、エヌビディアの成長を抑える結果になる可能性が高い(編集部:関連記事として丸川知雄「DeepSeekの衝撃(続)――「開放性」は「地政学」に勝つ」もご参照ください)。
注1 筆者が出展した827の企業・団体を確認したところ、外国企業はマイクロソフト、テスラ、シーメンスなど25社程度であり、残りはすべて中国企業だった。