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Commentary

世界人工知能大会(WAIC)でみた中国AIの現状
実用化へ邁進する技術開発

華金玲
慶應義塾大学総合政策学部訪問講師(招聘)
経済
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中国はすでにAIの実用化における大市場になっており、AIチップやAIサーバーに対する膨大な需要が発生しつつある。そのチャンスをつかもうとしている中国のICメーカーも少なくない。写真はファーウェイの昇騰384超節点。2025年7月(著者提供)
中国はすでにAIの実用化における大市場になっており、AIチップやAIサーバーに対する膨大な需要が発生しつつある。そのチャンスをつかもうとしている中国のICメーカーも少なくない。写真はファーウェイの昇騰384超節点。2025年7月(著者提供)

電力業界のはたらくロボット

一方、電力業界の展示では、実用性に重きをおいたロボットが展示され、AIロボットが各産業のさまざまなニーズに対応し始めていることを実感した。中国の二大送配電企業の一つである国家電網は、無人で道路上を走り、ドローンや各種の計測機器を使って送電線の状況を確認する「知能巡回車」を展示していた。もう一つの送配電企業の中国南方電網は、感電の危険がある送電線の作業を行うロボット「悟空」(写真4)など危険作業をするロボットをいくつか展示していた。

写真4 中国南方電網の作業ロボット「悟空」
写真4 中国南方電網の作業ロボット「悟空」

人間と対等に協働するAI

分科会でもAIのさまざまな応用事例が紹介された。アリババの生成AIモデルQwen(通義千問、通義万相)の応用事例を紹介する分科会では、人材紹介サイトの智聯招聘が、求職者のエントリーシートを人事部の代わりにAIがみて会社に合う人を振り分けてくれるシステムや、企業を代弁して求職者からの質問に答えるAIエージェントなどのシステムを紹介した。また、オランダの照明器具メーカー、シグニファイはQwenを導入して、人や車がまばらな場合は街灯の照度を小さくするシステムや街頭照明のメンテナンスを行っている事例を説明した。

聯影智能(United Imaging)という医療用AIの会社が設置した分科会では、同社のAI診断システムが紹介された。CTスキャン画像の分析は、医師にとって長時間の集中を要する過酷な作業となっているが、同社の胸部CTスキャン解析AIは、スキャン画像から自動的に76種類の病気の存在を割り出して診断報告書を生成することができるという。分科会では胸部CT画像をみてどれだけ優れた診断報告書が書けるかをAIチームと医師チームに分かれて競い合うプログラムも行われた。復旦大学付属中山医院の放射治療科に属する若手医師たちが3人ずつ人間チームとAI+人間チームに分かれ、さらにAIだけのチームも参加して3チームで、同じ3人の患者のCT画像をみて、制限時間内に診断報告書を書いた。その報告書をシニアの専門家が評価したところ、専門家たちは一致してAI+人間チームの報告書が最も優れていると判断した。AI+人間チームに参加した医師がいうには、このAIシステムを使った場合、医師が行うことはAIが指摘してくる問題を論理的に組み立てなおす作業であったという。ただ、専門家の評価ではAIの報告書は余計なことを書きすぎる傾向があり、温かみがないことが課題だと指摘した。

米中AI開発競争の最前線として

エヌビディアを狙い撃ちしたアメリカ政府の輸出規制

AIの世界では中国とアメリカが世界をリードしており、相互に強いライバル意識を持っている。アメリカは中国のAIの発展を食い止めるために、2022年10月からAIの訓練に使う先端的なICの輸出を規制し始めた。アメリカ政府はAIの訓練に最も広く使われているエヌビディア(NVDA)のA100とH100というデータセンター向けGPU(Graphics Processing Unit)の輸出を禁止し、それに匹敵する加工プロセスのICを中国企業が台湾TSMCに生産委託することも禁じた。しかし、エヌビディアにとって中国は大きなお得意様であり、中国市場をあきらめるわけにはいかない。そこでエヌビディアはアメリカ政府の規制に合うように性能を落としたA800/H800というGPUを開発して中国に輸出した。ところが、それを使って中国企業が生成AIアプリ「DeepSeek」を開発するなどしたため、アメリカ政府はこれらの輸出も禁止した。そこで、エヌビディアはそれよりもさらに性能を落としたH20を中国に輸出し続けている。

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