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Commentary

全人代で示された2025年の財政方針
好ましい方向性ながら持続可能性に懸念

藤井大輔
大阪経済大学経済学部講師
経済
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2025年の予算案は、全体の方向性としては好ましいものが示された一方、懸念される点もある。写真は全人代の閉幕式を終えた習近平国家主席(左)と李強首相。2025年3月11日(共同通信社)
2025年の予算案は、全体の方向性としては好ましいものが示された一方、懸念される点もある。写真は全人代の閉幕式を終えた習近平国家主席(左)と李強首相。2025年3月11日(共同通信社)

全体の方向性は好ましいが懸念も

近年の課題を考慮すると、今回の予算案は全体の方向性としては好ましいものが示されたのではないだろうか。まず、長年、投資から消費への転換が叫ばれ、今回の全人代の政府活動報告でも内需拡大がトップの重点項目として挙げられていたが、今回の予算案では内需拡大をめざそうという姿勢は見て取れる。例えば、「両新」のうち消費財の買い替えを促すための予算は3000億元と前年から倍増した。また、消費を根本的に拡大するためには可処分所得を増やす必要があるが、中央から地方への移転の使途を眺めてみると社会的に所得増が必要なグループへの補助が増加している。2024年の執行額と2025年の予算額を比較すると、多くの項目がほぼ変化なしであるのに対し、高齢者に対する年金、学生への援助、出生奨励へ転じた計画生育(出産)への移転支出は10%以上増加している。

もう一点、好ましい方向として挙げられるのが中央から地方への移転の増加である。1994年の分税制開始以降、地方政府が責任を負っている業務に対し、財源が過少であることが問題となっていた。このことがLGFVによる隠れ債務の拡大をもたらした。一方で、図1でもわかるように現状の中央政府の債務水準は地方政府に比べて高くはない。中央が超長期国債の発行収入を地方に移転する金額は、地方政府性基金収入が土地売却収入の低迷によって減少する部分を穴埋めする程度にすぎないが、信用力が高い中央政府が国債を発行し、その収入を地方政府へ配分する方法は適切と言えるであろう。

一方、懸念される点もある。内需拡大という方向性は見られるがその規模感は十分であろうか。経済成長の減速が続き、かつ全人代終了後の4月になって発表されたトランプ関税による悪影響も見込まれるなか、さらなる支出拡大が年度途中で求められるかもしれない。

また、より長期的な点として政府性基金部分の債務持続可能性も懸念される。超長期と長期の特別国債は政府債務に含まれないことになっている。しかし、当然ながら超長期国債もかなり先のことにはなるがなんらかの方法で償還しなければならない。2025年予算案によると、中央の政府性基金収入のうち、1/4は鉄道、航空、宝くじなどから、3/4は超長期特別国債と特別国債の発行収入が占めている。これまで、特別国債はアジア通貨危機、リーマンショック、新型コロナウイルス流行といった非常時に発行されてきたが、2024年(一部は2023年に前倒し)、2025年と連続して発行され、発行規模も増大している。財政部は、政府性基金に計上され財政赤字に計上されない超長期特別国債、特別国債、地方政府専項債を財政政策の「工具箱」と呼んでいるが、これらに頼った財政運営は果たして持続可能だろうか。

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