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Commentary

全人代で示された2025年の財政方針
好ましい方向性ながら持続可能性に懸念

藤井大輔
大阪経済大学経済学部講師
経済
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2025年の予算案は、全体の方向性としては好ましいものが示された一方、懸念される点もある。写真は全人代の閉幕式を終えた習近平国家主席(左)と李強首相。2025年3月11日(共同通信社)
2025年の予算案は、全体の方向性としては好ましいものが示された一方、懸念される点もある。写真は全人代の閉幕式を終えた習近平国家主席(左)と李強首相。2025年3月11日(共同通信社)

3. 2025年予算案の概要

ここからは、全人代で示された財政政策の概要を実行するための予算案のデータを確認したい。

表1. 2025年度政府予算案

出所:「関于2024年中央和地方予算執行情況与2025年中央和地方予算草案的報告」より藤井作成
注:2024年データは、2024年3月に開催された全人代で報告された2024年度予算案のデータである。

中国の予算は、教育支出などの収益性のない予算項目のための「一般公共予算」、不動産開発など収益性のある予算項目のための「政府性基金」、国有企業関連の「国有資本経営予算」、年金運営などのための「社会保険基金」の4本立てとなっている。表1は、そのうち中央と地方の一般公共予算と政府性基金の予算額を示したものである。

まず、①の国家財政赤字の比率の3%から4%への拡大であるが、これは中央と地方の一般公共予算の部分の赤字に該当する。中央政府の赤字は国債発行による収入によって賄われ、その規模は4兆8600億元となっている(表1 a. 中央一般公共予算の「国債収入」)。地方の一般公共予算の赤字は地方債のうち、一般債券で賄われ、8000億元となっている(同b. 地方一般公共予算の「地方政府一般債券収入」)。中央と地方、いずれも債券発行額は前年より増加しているが、中央の国債発行額がより顕著に増加している。

つぎに、②の大規模な政府債券の発行についてである。前述の一般公共予算の赤字を埋め合わせるための国債と地方一般債券に加え、政府性基金の部分でも政府債券が発行されている。

中央政府分では、1兆3000億元の超長期特別国債と5000億元の特別国債の発行が見込まれている(同c. 中央政府性基金の「超長期特別国債収入」と「特別国債収入」)。超長期特別国債は、8000億元を「両増」、5000億元を「両新」に割り当てる。そして、「両新」分のうち、設備の更新のために2000億元(前年比500億元増)、消費財の買い替え促進のために3000億元(前年比1500億元増)割り当てることも財政部報告のなかで示されている。5000億元の特別国債は、国有大型商業銀行に対する国家からの追加出資として注入される予定である。

地方政府が発行し、政府性基金に算入する地方債は専項債券と呼ばれる。地方政府はこの地方専項債券を4兆4000億元(前年比5000億元増)発行する予定である(表1 d. 地方政府性基金の「地方政府専項債券収入」)。発行額の増加とともに、「ネガティブリスト」方式による用途の拡大、「自己査定・自己発行」方式の試行も言及している。

政府性基金の部分に関連する債券も中央、地方いずれも発行額が前年より増加しているが、一般公共予算の債券と同様に、政府性基金の部分でも中央が発行する国債の発行額の増加が顕著に見られる。

なお、前述(①)の国家財政赤字比率は一般公共予算の部分のみで算出し、政府性基金分の赤字を埋めるために中央政府が発行する超長期特別国債と特別国債、そして地方政府が発行する専項債券は、2025年度の財政赤字比率4%には含まれない。

③の支出構造の最適化については、政府の重点任務の方針でもあったように、内需拡大と民生改善を中心に各重点任務の間の政策協調が挙げられている。

④のリスク緩和については、すでに述べた国有大型商業銀行への資本注入のほかに、地方専項債券発行収入を用いた在庫不動産買い入れによる不動産の市場価格の下落抑止が挙げられている。なお、地方の政府性基金収入の大半は、地方政府による不動産開発業者に対する土地使用権の払い下げ収入によって占められているが、この数年減少し続けている。2024年予算編成時点では、地方政府性基金は6兆6328億元の収入を見込んでいた(表1 d. 地方政府性基金の「地方政府性基金収入」)。しかし、この3月の全人代で発表された2024年の決算によると、結果的に5兆7356億元しか得られなかった。地方政府の財源を確保するためにも不動産価格の安定化は喫緊の課題である。

⑤の中央から地方への移転支払いの増額についても確認しておこう。一般公共予算部分では10兆3415億元が中央一般公共予算から地方へ移転支払いされ(同a. 中央一般公共予算の「地方への移転支払い」)、うち2兆7340億元を地域格差是正のための均衡性移転支払いに、4795億元を県レベル基本財政保障メカニズムのために移転を行う。一般公共予算部分は災害復興支援など一時的な移転を除いて前年比8.4%増となっている。

加えて、政府性基金の部分でも、1兆2681億元の地方への移転が行われる予定である(同c. 中央政府性基金の「地方への移転支払い」)。この大半を占めるのが超長期国債収入の地方への移転で1兆1400億元となっている。2024年も予算時点で5000億元、実際の執行額は8752.96億元となっていたが、2025年はさらなる増額が予定されている。この移転は前述の「両重」「両新」に使われる予定である。

以上が、財政部報告で示された重点項目を実行するための予算概要である。

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