トップ 政治 国際関係 経済 社会・文化 連載

Commentary

全人代で示された2025年の財政方針
好ましい方向性ながら持続可能性に懸念

藤井大輔
大阪経済大学経済学部講師
経済
印刷する
2025年の予算案は、全体の方向性としては好ましいものが示された一方、懸念される点もある。写真は全人代の閉幕式を終えた習近平国家主席(左)と李強首相。2025年3月11日(共同通信社)
2025年の予算案は、全体の方向性としては好ましいものが示された一方、懸念される点もある。写真は全人代の閉幕式を終えた習近平国家主席(左)と李強首相。2025年3月11日(共同通信社)

今年も例年どおり3月に全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が開催され、重点任務などの方針が政府各部門から示された。ここでは、その政府の方針を進めていくための2025年度予算について、昨年度の予算と比較をしながら検討する。

1. 内需拡大が重点項目のトップに

2025年も全人代が3月5日から3月11日にかけて北京で開催された。今年は2021年から始まった第14次5か年計画の最終年にあたる年となる。5か年計画で示された数値目標のうち、常住人口の都市化率や基本養老保険(年金制度)加入率などすでに達成したものもある。一方で、2010年代前半から続くマクロ経済のスローダウンに加え、不動産不況、地方政府の債務問題、そして米中貿易摩擦など不確実性に満ちた状況は前年と変わりなく、5か年計画では「状況に応じて毎年設定される」としたGDP成長率の達成は予断を許さない状況が続く。

上記のような状況の下で開催された2025年度の全人代において、李強首相による政府活動報告のなかで前年の総括と今年の方針が示された。ただ、例年のことではあるが、全人代で示される方針は、前年12月に開催される中央経済工作会議などですでに概要が示されており、全人代ではその方針の具体的な内容を承認するという流れをとることが多い。

2025年度の全人代の政府活動報告で示された重点任務は以下の10項目であった。①内需の拡大、②産業体系の現代化、③科学教育・イノベーション、④経済体制改革、⑤対外開放拡大、⑥重点分野のリスク管理、⑦三農(農業・農村・農民)問題、⑧都市化と地域協調発展、⑨経済社会のグリーン化、⑩民生の保障・改善である。

今回の全人代で示された重点任務の内容は、前年12月11日から12日にかけて開催された中央経済工作会議で示された任務9項目とほぼ同じである。全人代と中央経済工作会議の重点任務項目の差は、中央経済工作会議にはなかった科学教育・イノベーションが全人代では③として加わり、それ以降の項目の順位が一つずつ下がっただけである。

敢えて新しい点を言えば、習近平国家主席の下で開催された2014年以降の全人代のなかで、今回初めて内需拡大が重点任務項目の1番目に現れたことであろう。内需拡大自体は項目に現れていたが、マクロコントロールや生産面での項目が1番目になることが多かった。内需拡大が重点任務の項目の1番目となったのは胡錦濤政権の温家宝首相によって報告が行われた2013年の全人代で、内需拡大を経済発展の長期戦略方針とすると述べられて以来である。

2. 前年後半からの財政刺激策に期待

ではその内需拡大をどのように図っていくのであろうか。ここからは2024年後半から今回の全人代にかけて行われた、財政政策の発表過程に焦点を当て確認したい。

2024年10月12日に財政部の藍仏安部長は記者会見を開催し、財政刺激策の方向性を発表した。このなかで地方政府の既存の隠れ債務を置き換えるために地方債発行枠を1.2兆元(1元=約20円、2025年3月時点)分拡大すること、中央政府が大型国有商業銀行へ資本注入するための特別国債を発行すること、専項(特別)地方債を用いて不動産価格の下落を抑止すること、低所得者層への生活支援を増やすことを明らかにした。これを機に市場での財政拡張の期待が高まり、さまざまな金融機関やメディアが特別国債の発行額や財政赤字比率を予想するようになった。

1 2 3 4

Copyright© Institute of Social Science, The University of Tokyo. All rights reserved.