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Commentary

中国における自動運転
主な企業と乗車体験

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)
長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)

中国では今年(2025年)のうちにも自動運転タクシーや自動運転バスの営業運転が始まりそうだ。中国で自動運転の実証実験を行っている企業は30社以上あるとみられるが、ここでは私が2024年1月から11月にかけて中国の各都市で走行の現状を見たり、乗車を体験したりした3社の状況を紹介したい。

1.北京――小馬智行の自動運転車

小馬智行(Pony AI)の概要

小馬智行(Pony AI)は2016年に百度(Baidu)のエンジニアだった彭軍と楼天城によって創立された新興企業である。同社は2018年12月から自動運転タクシー(ロボタクシー)の実証実験を始めた。2020年にトヨタ自動車と第一汽車からの出資を受け、一定の条件下での完全自動運転を意味する「レベル4」の自動運転を運営する独立の企業としては中国最大である。ただ、ハイテクベンチャーの御多分に漏れず、赤字経営が続いており、2023年は8.8億元の研究開発支出に対して売上高は5.1億元にすぎなかった。

小馬智行は現在、広州・北京・上海・深圳で250台のロボタクシーを運行しており、1台あたり一日に15回の乗車があるという(『21世紀経済報道』2024年10月22日)。同社のシステムが搭載されているのはトヨタ(レクサス)車の他、中国メーカーの上海汽車、第一汽車、広州汽車の自動車である。2025年には北京汽車集団の「アルファT5」に小馬智行の自動運転システムを搭載した車が発売され、北京のロボタクシーとして投入される見込みである。

小馬智行はこの他、大手トラック・建機メーカーの三一重工とレベル2(ドライバーの監視のもと、特定の条件下で自動運転する)からレベル4の自動運転ができるロボトラックを共同で開発した。目下190台の自動運転トラックを運営し、うち160台は中国外運という運輸会社との合弁企業において運送業務を行っている。小馬智行は海外での事業展開にも取り組み始めており、2024年3月にはルクセンブルク政府と意向書を交わした。今後、ルクセンブルクを足場としてヨーロッパでの自動運転の展開を目指している。また、韓国に合弁企業を設立し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦での事業も進めているという(Pony AI 2024)。

北京での乗車体験

私は2024年1月22日に北京市で、小馬智行のシステムをレクサス車に搭載した自動運転車に試乗する機会を得た。車の運転席には誰も座らず、助手席には自動運転実験区の副主任が同乗した。15分程度の乗車中、彼はもっぱら後部座席に座る私たちの方を向いておしゃべりを続け、自動運転の安全性に対して全幅の信頼を置いていた。彼の説明によれば、私たちが乗った車およびシステムの価格はそれぞれ70万元(約1400万円)ということで、なかなか高価なシステムである。

車は北京市郊外にある亦荘工業団地内の一般道路を走った。道路幅は広かったものの、路上にはジョギングする人や自転車もいて、自動運転車にとって必ずしも運転しやすい道路環境とはいえない。そうしたなかを自動運転車は安全かつ最高速度60km/hで走行した。

交差点で左折する場面でも車は安全かつスムーズに曲がった。ちなみに、中国の道路は右側通行であるため、左折する際には対向車に注意する必要がある。左折のみに青信号が出ていて、対向車が止まっている状態であれば曲がりやすいが、対向車線にも青信号が出ていて、対向車線の車も動いている場合もある。こうした「無保護の左折」をする場合、小馬智行のシステムではゲーム理論を応用しているという(Pony AI 2024, p.146)。つまり、相手の車の行動からその意図を読み、かつ自らの動きによって相手の車に意図を知らせ、それに対する相手の反応によって次の行動を決めているのである。

いま自動運転車が左折しようとしているとして、対向車が比較的近くまで来ているが、左折に配慮して減速してくれそうな雰囲気があるとする。そこで、自動運転車は少し前進して左折する意図を示す。そうしたら対向車が本当に減速したので、自動運転車は左折を遂行する。このように、一般のドライバーが運転する時には相手の意図を読み、自分の意図を行動によって相手に伝え、それに対する相手の反応から次の動きを決めるということを行っている。もし相手の意図を読まずに、対向車との距離など機械的な基準によって次の行動を判断するとしたら、とくに中国のように通行量が多い道路環境のもとでは、自動運転車が左折することはなかなか難しいであろう。

私たちが乗っていた間で自動運転にとって最もチャレンジングだったのは、前方で路肩に停まっていた車が合図もなくいきなり発進した場面である。この予想外の動きに対して、日本の一般ドライバーであれば懲罰的にクラクションを鳴らすだろう。一方、小馬智行の自動運転車は、車体が完全に対向車線に出るほどの大きな回避動作をとった。小馬智行の乗車体験のなかでこの動きに限っては、人間らしくない不自然な動きだという印象を持った。

2.上海――百度のロボタクシー

百度の自動運転車の概要

大手インターネット企業の百度も、自動運転を運営する代表的な企業として知られている。百度は2013年から自動運転の研究開発を開始し、2017年には自動運転プラットフォーム「アポロ」を開設して、ロボタクシーの他、自動運転バス、鉱山での無人トラック、無人巡検車などを開発している。百度は「蘿蔔快跑(ロボ・クアイパオ)」の名称により、全国11都市(北京、陽泉、上海、烏鎮、合肥、武漢、重慶、成都、長沙、広州、深圳)でロボタクシーを運行している。運行しているロボタクシーの総数は2000台ともいわれ、ロボタクシーの事業規模では中国最大であろう。

百度は自動運転車の低価格化を推進していることでも知られている。たとえば、百度が2021年に北京汽車集団の極狐(Arcfox)と開発した第5世代の自動運転車「アポロ・ムーン」はコストが48万元(約1000万円)で、当時のレベル4の自動運転車としては驚くべき安さであった(『光子星球』2021年6月17日)。さらに、江鈴汽車(フォードが32%出資する江西省の商用車メーカー)との共同開発により2024年5月に発売された第6世代の自動運転車「頤馳06」は価格が20万元(約400万円)と、自動運転車にしては破格の安さである(路 2025)。

ただし、車両以外の部分でのコストを含めると、百度の自動運転は必ずしも低コストではないという指摘もある。武漢市の「蘿蔔快跑」の例でいうと、運行しているロボタクシーのうち、車内に「安全員」(乗務員)を配置しているものが5%を占めている。さらに、ロードサイドに「路測員」を200人配置し、前述のようにコントロールセンターで運行状況を監視する人が運行台数の3分の1から5分の1程度いる。加えて、道路2kmごとに路面の突発的な状況に対処するためのスタッフが配置されており、総勢200人いるという(『21世紀経済報道』2024年8月19日)。それでも車両の安さが効いているのか、百度によれば武漢でのロボタクシー業務は2025年には黒字転換できる見込みだという(路 2025)。

百度のロボタクシーは、自動運転の質においては小馬智行に比べて見劣りがする。小馬智行の上場目論見書では、広州市が2022年の市内での自動運転実証実験に関して評価したレポートの内容を紹介している(Pony AI 2024, p.129)。それによれば、実証実験の走行距離では、小馬智行の278万kmに対して百度は232万kmとさほど見劣りしないものの、ドライバーが介入するまでに自動運転で走行した距離(kilometers per disengagement, KMPD)で見ると、小馬智行を100とすると、百度は18未満だった。つまり、百度の場合、5倍以上の頻度でドライバーの介入が必要だったということである。KMPDにおいて小馬智行に近い成績を上げたのは文遠知行であった。

上海での乗車体験

私は2024年11月26日に中国人の知人の助けを借りて、上海市嘉定区で一般の利用者として百度のロボタクシー「蘿蔔快跑」を使ってみた。

「蘿蔔快跑」に乗るには、まず専用のアプリをスマートフォンにダウンロードして登録する必要がある。中国では「実名制」が徹底しているため、実名と身分証番号を登録しなければアプリを使えない。アプリを開くと、ロボタクシーに乗降車できる場所が地図上に表示される。つまり、ロボタクシーはタクシーというよりもオンデマンドのバスといった方が実態に近く、あらかじめ定められた場所でしか乗降車できない。アプリのなかで乗車したい場所、降車したい場所を選び、車を呼ぶ。すると、呼ばれた車の現在位置や車両ナンバーがスマホ上に表示され、到着予定時間もわかる。このあたりの操作感は中国でよく使われる滴滴出行(DiDi)などのネット予約車や日本でタクシーを呼ぶ「Go」などと同じである。

私たちが「蘿蔔快跑」に乗車したのは上海市嘉定区の地下鉄安亭駅前のバス停である。アプリで呼ぶと、5分ほどで自動運転車が乗車場所にやってきた。車種は北京汽車の「極狐」で、前述の第5世代の自動運転車である(写真1)。筆者らの乗車場所で前の客が降車し、我々が乗り込む。運転席には安全員が乗車しており、「いらっしゃい」と声をかけてきたが、それ以外は最後まで何も話さなかった。規定上、乗客と会話してはいけないことになっているのである。また、助手席には機器が置いてあって乗車できず、荷物トランクも利用できない。タクシーに乗り込んだ客はまず眼前にあるタッチスクリーン(写真2)に携帯番号の末尾4桁を入力して、自分が予約した当人であることを確認し、その上で「起動」のボタンを押す。すると車が走り始める。

写真1 「蘿蔔快跑」のロボタクシーは北京汽車の「極狐」を使っている。(上海市嘉定区で筆者撮影)
写真1 「蘿蔔快跑」のロボタクシーは北京汽車の「極狐」を使っている。(上海市嘉定区で筆者撮影)
写真2 「蘿蔔快跑」のロボタクシーの後部座席には大型タッチパネルが設置されており,音楽を聴くこともできる。(上海市嘉定区で筆者撮影)
写真2 「蘿蔔快跑」のロボタクシーの後部座席には大型タッチパネルが設置されており、音楽を聴くこともできる。(上海市嘉定区で筆者撮影)

私たちは安亭駅から嘉定新城駅までの約15キロメートル乗車したが、乗車したのが夕方で交通量が多かったため、所要時間は50分ほどであった。まだ本格的な営業運転は始まっていないものの、サービスはすでに有料であり、我々の乗った距離であれば30元以上の料金が発生する。ただし、同行した知人にとって「蘿蔔快跑」を利用するのは初めてだったため、初回料金ということでタダであった。乗車した地域には上海フォルクスワーゲンの工場があり、自動車部品を組み立て工場に運ぶトラックや、出来上がった車を輸送するトラックが行きかい、かつ退勤ラッシュでもあったため、北京市で小馬智行の自動運転車を体験した時よりも交通量がはるかに多く、かつ複雑であった。

自動運転車は制限速度が60km/hの幹線道路を走ったが、スピードが出せる箇所では60km/hまで速度を上げた。交通量の多い一般道路であったため、自動運転車にとってはなかなか厳しい走行環境であった。ある時は車の右奥から目の前へ電動バイクが飛び出してきた。右側の脇道からやや無理なタイミングで車が出てきて左側の対向車線に入ったこともあった。対向車線の車が左折しようとしていて、車体の一部が、ロボタクシーが走行する車線に少しはみ出ている場面もあった。こうしたチャレンジングな走行環境に対して、ロボタクシーはいずれも適切に対応した。電動バイクが飛び出した時は強くブレーキをかけ、脇道から出てきた車に対してはパッシング(前照灯を上向きにパチパチと点滅させて警告すること)をした。対向車のはみ出しに対して、自動運転車は少し右側による回避動作をしたが、北京の小馬智行の車に比べて小さめの動作であった。また、交通量の多い片側二車線の道路で、自動運転車は相対的に空(す)いている車線への車線変更を行い、より速く目的地に到達する努力をした。以上の動作はほぼすべて自動運転車が自律的に行ったものだと思うが、運転席で安全員が実際に何をしているのか私の位置から確認できなかったので、本当のところはよくわからない。

拙さが目立った場面も

一般のドライバーが運転するのに比べて運転が拙(つたな)い場面もいくつかあった。たとえば、百度の自動運転車は、車線変更は余り得意ではないようで、動きがぎくしゃくしており、入っていこうとする車線の後続車からクラクションを鳴らされることもあった。

中国の交通規則では、交差点で前方の信号が赤の場合でも、交差する方向の車や人の通行を妨げないという条件で右折(日本でいうと左折)することが許されている(道路交通安全法実施条例第38条)。実際、幹線道路と幹線道路が交わる交差点で自動運転車は赤信号で右折しようとした。ところが、交差方向の道路の交通量が多めだったので、車はなかなか右折のタイミングがつかめなかった。交差する道路の側では、スピードが速い乗用車が先に行った後、スピードが遅いトラックがやってきた。もしロボタクシーが右折を敢行すれば、安全に右折することができるように思えた。

実際、自動運転車は少し動いたのだが、すぐに止まってしまい、トラックが行き過ぎるのを待った。その次も遅いトラックが来たが、ロボタクシーは再び行こうとして止まり、結局右折できたのは最後の車が行った後であった。このあたりの動作は、ゲーム理論を使い、自分の行動によって相手に意図を知らせる小馬智行のロボタクシーであればもっと上手にこなせるのではないだろうか。

「蘿蔔快跑」のロボタクシーの動作のなかでの最大の難点だと思われたのが、交差点で信号が赤から青に変わった時の発進動作である。一般の車は、信号が青になったらアクセルを強めに踏んでスピードを一気に上げて交差点へ進入するであろう。ところが、ロボタクシーは、青信号になって前の車が発進して遠く先へ行っても、交差点を通過する間は非常にゆっくりと走り、通過後にスピードを上げていくのである。この動作にいら立った後続の車がロボタクシーに向かってクラクションを鳴らす場面が、約50分の乗車の間に2回あった。これは私の想像であるが、ロボタクシーは横断歩道が視野に入ると、通行人がいないかどうかを確認してから通過するようにプログラミングされているのであろう。信号がある交差点の場合、交差点に進入しようとすると、前方の横断歩道が自動運転車の視野に入る。そのため、ゆっくりと交差点に進入するのではないだろうか。

私たちが乗った自動運転車は、約50分の乗車の間、筆者が膝の前に置いたスーツケースの上からスマホが滑り落ちる程度の急ブレーキを3回かけた。1回目は電動バイクが前に飛び出してきた時であるが、2回目と3回目は理由不明であった。その都度、自動音声で「急ブレーキで済みません。安全のためですからご理解ください」というアナウンスが流れた。しかし、2回目と3回目の急ブレーキに関しては、何か急なことが起きたわけではなかった。

合格点は出せるが課題も

乗客を安全かつスムーズに目的地に届けるという点では「蘿蔔快跑」はすでに合格点に達しているといえる。初乗り料金が7元と安く、かつ実証実験の間は3割引であるため、初乗り料金が14~16元のタクシーよりもかなり安上がりである。そのため、すでにタクシーの客をだいぶ奪っているという(『21世紀経済報道』2024年8月19日)。しかし、上海市郊外の夕方のラッシュ時という道路環境に果たして「蘿蔔快跑」が適応できているかというと、乗車している間に3回クラクションを鳴らされたり(車線変更で1回、交差点で2回)、理由もなく2回も急ブレーキを踏んだりするなど、まだ十分に適応しているとはいえない面があった。

3.大連――文遠知行の自動運転バス

文遠知行(WeRide)の概要

文遠知行(WeRide)は、米国ミズーリ大学准教授で、百度で自動運転の開発に従事していた韓旭と、ネット予約車の神州優車(Ucar)で自動運転の開発に従事していた李岩によって2017年に設立された。当初の社名は景馳技術であったが、2018年に現在の会社名に変更した。また、同年にルノー・日産・三菱自動車からの投資を受け、レベル4の自動運転タクシーの実証実験を広州市で始めた。2020年に中国の商用車・建機メーカーの宇通集団から2億ドルの出資を受け、それ以来、宇通集団が最大株主となっている。

文遠知行の経営上の特徴は、WeRideOneという共通のプラットフォーム(ハードウェア、ソフトウェア、クラウド)を構築し、ロボタクシー以外に、自動運転バス、自動運転運送車、自動運転清掃車などの商用車にも事業を展開していることである(WeRide 2024)。ロボタクシーは中国国内では広州市と北京市、海外ではアラブ首長国連邦で運営している。ロボタクシーの車両には日産や吉利の乗用車を利用している。

自動運転バス(ロボバス)は、宇通集団および厦門金龍が製造する小型バスに自動運転システムを搭載し、中国の25都市、シンガポール、フランス、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタールで運行している。2024年10月時点で300台余りのロボバスが運行中であるという。乗客定員が少ないので、景観地区やリゾートなど狭い地域での運行に使われている(路 2025)。

自動運転輸送車(ロボバン)は江鈴汽車の車両に自動運転システムを装備したものである。中国の宅配業者である中通快逓(ZTO)と提携しており、ZTOはロボバンの商業生産が始まれば採用する見込みだという。

自動運転清掃車(ロボスイーパー)はレベル4の自動運転により道路清掃を行う車両であり、車両は宇通集団が提供する。北京市、鄭州市、広州市、東莞市、汕頭市などでロボスイーパーが運用されている。

文遠知行も小馬智行と同様に赤字経営をまだ脱しておらず、2023年には研究開発支出が10.6億元だったのに対して売り上げは4.0億元だった。

大連での乗車体験

私は2024年8月29日に大連で、文遠知行の子会社である大連文遠知行智能科技有限公司が運営する自動運転バスに乗車した。バスなので各停留所に来る時間は定められており、乗車希望者はスマホのアプリを通じて何時何分のバスに乗るのか予約する必要がある。バスには安全員が一人乗車しているが、彼の役割は乗客にシートベルト装着を促すなど車内の安全管理であり、運転はしない。実は筆者らは予約したバスの出発時間に数分遅刻したのだが、安全員の配慮により、出発時間を遅らせてくれた。

車内には安全員の他には乗客が8人しか乗れない。大連で走行したのは高級マンションが立ち並ぶ東港地区を一周するルートで、途中には地下鉄の駅もあるので、日常の移動の手段として使っている乗客もいた。大連市内では経済技術開発区にももう1路線ある。

私が乗ったバスが通る地域は新興開発地域で、道路は広く、交通量は少なく、自動運転車には優しい走行環境であった。バスなので最高速度は40km/hに制限されており、それ以上のスピードは出さない。写真3に見るように、ロボバスの前方の左右にはライダー(LiDAR。レーザー光線を使ったレーダー)が装着されているが、前方の様子は主にカメラで捉えて判断している。ロボバスはバス停に順次停車して路線を一周し、途中で急ブレーキをかけることはなかった。乗車時間は15分程度と短かったが、とくに不自然な動きも危ない動きもなく、安全に目的地に着いた。

写真3 大連・東港地区で運行されている自動運転バス。(筆者撮影)
写真3 大連・東港地区で運行されている自動運転バス。(筆者撮影)

自動運転の難敵・違法駐車

ただ、そうした環境であっても、ロボバスにとって必ずしも甘くない状況がある。それは違法駐車の横行である。大連市では駐車禁止や駐停車禁止の場所であっても歩道寄りの車線が違法駐車の車によって占拠されていることが多く、歩道上に乗り上げて停められている車も多い。大連市民によれば、仮に違法駐車が見つかっても罰金が100元程度と低額であるため、駐車料金を節約する目的で違法駐車をする車が後を絶たないそうである。そうした状況は高級マンションが立ち並ぶ東港地区でも同様であった。自動運転車はそうした交通法規とは異なる現実に対処する必要がある。

自動運転は社会にどのような貢献をするのか

中国の主要都市では2025年のうちにロボタクシーの営業運転が始まりそうだし、観光地やテーマパークなどでのロボバスの運行も始まりそうである。地方政府や企業が前のめりに進めてきた実証実験から実用化へ移行する時期が近づいている。

ただ、その一方で、自動運転を普及させることの社会的意義は何かということがもっと問われるべきだと思う。ロボタクシーが普及する効果として真っ先に考えられるのが運転手の人件費の節約である。運転手の人件費を仮に年10万元とすると、百度の第6世代の自動運転車の価格は20万元だから、運転手なしで2年間運行すれば車両代をまるごと回収できてしまう。その経済効果は絶大であるが、問題は機械に運転手の仕事を代替させる社会的ニーズがあるのかということである。他に仕事を見つけられない人々にとってネット予約車の運転手や電動バイクによる配送業などは、いわば困った時の最後の砦(とりで)だと見なされている。仕事探しに困っている人々の就職先を奪うことを果たして社会は求めているのだろうか。

都市によって直面する交通問題は異なる。北京市では渋滞が相変わらず問題であるし、大連市では違法駐車の蔓延(まんえん)が問題である。自動運転が広く普及すれば、行きたい場所へ行きたい時に行けるようになり、自分で車を保有したり、運転したりする必要がなくなる。自動運転車ばかりが走る道路は事故率が下がるであろう。長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。

参考文献
路行「Robotaxi囲城之戦,跑馬圏地但不賺銭」『汽車商業評論』2025年1月27日。
Pony AI, Prospectus, Nov.27, 2024.
WeRide, Prospectus, Oct. 25, 2024.

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