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Commentary

中国における自動運転
主な企業と乗車体験

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)
長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)

自動運転は社会にどのような貢献をするのか

中国の主要都市では2025年のうちにロボタクシーの営業運転が始まりそうだし、観光地やテーマパークなどでのロボバスの運行も始まりそうである。地方政府や企業が前のめりに進めてきた実証実験から実用化へ移行する時期が近づいている。

ただ、その一方で、自動運転を普及させることの社会的意義は何かということがもっと問われるべきだと思う。ロボタクシーが普及する効果として真っ先に考えられるのが運転手の人件費の節約である。運転手の人件費を仮に年10万元とすると、百度の第6世代の自動運転車の価格は20万元だから、運転手なしで2年間運行すれば車両代をまるごと回収できてしまう。その経済効果は絶大であるが、問題は機械に運転手の仕事を代替させる社会的ニーズがあるのかということである。他に仕事を見つけられない人々にとってネット予約車の運転手や電動バイクによる配送業などは、いわば困った時の最後の砦(とりで)だと見なされている。仕事探しに困っている人々の就職先を奪うことを果たして社会は求めているのだろうか。

都市によって直面する交通問題は異なる。北京市では渋滞が相変わらず問題であるし、大連市では違法駐車の蔓延(まんえん)が問題である。自動運転が広く普及すれば、行きたい場所へ行きたい時に行けるようになり、自分で車を保有したり、運転したりする必要がなくなる。自動運転車ばかりが走る道路は事故率が下がるであろう。長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。

参考文献
路行「Robotaxi囲城之戦,跑馬圏地但不賺銭」『汽車商業評論』2025年1月27日。
Pony AI, Prospectus, Nov.27, 2024.
WeRide, Prospectus, Oct. 25, 2024.

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