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Commentary

中国における自動運転
主な企業と乗車体験

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)
長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)

「蘿蔔快跑」のロボタクシーの動作のなかでの最大の難点だと思われたのが、交差点で信号が赤から青に変わった時の発進動作である。一般の車は、信号が青になったらアクセルを強めに踏んでスピードを一気に上げて交差点へ進入するであろう。ところが、ロボタクシーは、青信号になって前の車が発進して遠く先へ行っても、交差点を通過する間は非常にゆっくりと走り、通過後にスピードを上げていくのである。この動作にいら立った後続の車がロボタクシーに向かってクラクションを鳴らす場面が、約50分の乗車の間に2回あった。これは私の想像であるが、ロボタクシーは横断歩道が視野に入ると、通行人がいないかどうかを確認してから通過するようにプログラミングされているのであろう。信号がある交差点の場合、交差点に進入しようとすると、前方の横断歩道が自動運転車の視野に入る。そのため、ゆっくりと交差点に進入するのではないだろうか。

私たちが乗った自動運転車は、約50分の乗車の間、筆者が膝の前に置いたスーツケースの上からスマホが滑り落ちる程度の急ブレーキを3回かけた。1回目は電動バイクが前に飛び出してきた時であるが、2回目と3回目は理由不明であった。その都度、自動音声で「急ブレーキで済みません。安全のためですからご理解ください」というアナウンスが流れた。しかし、2回目と3回目の急ブレーキに関しては、何か急なことが起きたわけではなかった。

合格点は出せるが課題も

乗客を安全かつスムーズに目的地に届けるという点では「蘿蔔快跑」はすでに合格点に達しているといえる。初乗り料金が7元と安く、かつ実証実験の間は3割引であるため、初乗り料金が14~16元のタクシーよりもかなり安上がりである。そのため、すでにタクシーの客をだいぶ奪っているという(『21世紀経済報道』2024年8月19日)。しかし、上海市郊外の夕方のラッシュ時という道路環境に果たして「蘿蔔快跑」が適応できているかというと、乗車している間に3回クラクションを鳴らされたり(車線変更で1回、交差点で2回)、理由もなく2回も急ブレーキを踏んだりするなど、まだ十分に適応しているとはいえない面があった。

3.大連――文遠知行の自動運転バス

文遠知行(WeRide)の概要

文遠知行(WeRide)は、米国ミズーリ大学准教授で、百度で自動運転の開発に従事していた韓旭と、ネット予約車の神州優車(Ucar)で自動運転の開発に従事していた李岩によって2017年に設立された。当初の社名は景馳技術であったが、2018年に現在の会社名に変更した。また、同年にルノー・日産・三菱自動車からの投資を受け、レベル4の自動運転タクシーの実証実験を広州市で始めた。2020年に中国の商用車・建機メーカーの宇通集団から2億ドルの出資を受け、それ以来、宇通集団が最大株主となっている。

文遠知行の経営上の特徴は、WeRideOneという共通のプラットフォーム(ハードウェア、ソフトウェア、クラウド)を構築し、ロボタクシー以外に、自動運転バス、自動運転運送車、自動運転清掃車などの商用車にも事業を展開していることである(WeRide 2024)。ロボタクシーは中国国内では広州市と北京市、海外ではアラブ首長国連邦で運営している。ロボタクシーの車両には日産や吉利の乗用車を利用している。

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