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Commentary

中国における自動運転
主な企業と乗車体験

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)
長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)

ただし、車両以外の部分でのコストを含めると、百度の自動運転は必ずしも低コストではないという指摘もある。武漢市の「蘿蔔快跑」の例でいうと、運行しているロボタクシーのうち、車内に「安全員」(乗務員)を配置しているものが5%を占めている。さらに、ロードサイドに「路測員」を200人配置し、前述のようにコントロールセンターで運行状況を監視する人が運行台数の3分の1から5分の1程度いる。加えて、道路2kmごとに路面の突発的な状況に対処するためのスタッフが配置されており、総勢200人いるという(『21世紀経済報道』2024年8月19日)。それでも車両の安さが効いているのか、百度によれば武漢でのロボタクシー業務は2025年には黒字転換できる見込みだという(路 2025)。

百度のロボタクシーは、自動運転の質においては小馬智行に比べて見劣りがする。小馬智行の上場目論見書では、広州市が2022年の市内での自動運転実証実験に関して評価したレポートの内容を紹介している(Pony AI 2024, p.129)。それによれば、実証実験の走行距離では、小馬智行の278万kmに対して百度は232万kmとさほど見劣りしないものの、ドライバーが介入するまでに自動運転で走行した距離(kilometers per disengagement, KMPD)で見ると、小馬智行を100とすると、百度は18未満だった。つまり、百度の場合、5倍以上の頻度でドライバーの介入が必要だったということである。KMPDにおいて小馬智行に近い成績を上げたのは文遠知行であった。

上海での乗車体験

私は2024年11月26日に中国人の知人の助けを借りて、上海市嘉定区で一般の利用者として百度のロボタクシー「蘿蔔快跑」を使ってみた。

「蘿蔔快跑」に乗るには、まず専用のアプリをスマートフォンにダウンロードして登録する必要がある。中国では「実名制」が徹底しているため、実名と身分証番号を登録しなければアプリを使えない。アプリを開くと、ロボタクシーに乗降車できる場所が地図上に表示される。つまり、ロボタクシーはタクシーというよりもオンデマンドのバスといった方が実態に近く、あらかじめ定められた場所でしか乗降車できない。アプリのなかで乗車したい場所、降車したい場所を選び、車を呼ぶ。すると、呼ばれた車の現在位置や車両ナンバーがスマホ上に表示され、到着予定時間もわかる。このあたりの操作感は中国でよく使われる滴滴出行(DiDi)などのネット予約車や日本でタクシーを呼ぶ「Go」などと同じである。

私たちが「蘿蔔快跑」に乗車したのは上海市嘉定区の地下鉄安亭駅前のバス停である。アプリで呼ぶと、5分ほどで自動運転車が乗車場所にやってきた。車種は北京汽車の「極狐」で、前述の第5世代の自動運転車である(写真1)。筆者らの乗車場所で前の客が降車し、我々が乗り込む。運転席には安全員が乗車しており、「いらっしゃい」と声をかけてきたが、それ以外は最後まで何も話さなかった。規定上、乗客と会話してはいけないことになっているのである。また、助手席には機器が置いてあって乗車できず、荷物トランクも利用できない。タクシーに乗り込んだ客はまず眼前にあるタッチスクリーン(写真2)に携帯番号の末尾4桁を入力して、自分が予約した当人であることを確認し、その上で「起動」のボタンを押す。すると車が走り始める。

写真1 「蘿蔔快跑」のロボタクシーは北京汽車の「極狐」を使っている。(上海市嘉定区で筆者撮影)
写真1 「蘿蔔快跑」のロボタクシーは北京汽車の「極狐」を使っている。(上海市嘉定区で筆者撮影)
写真2 「蘿蔔快跑」のロボタクシーの後部座席には大型タッチパネルが設置されており,音楽を聴くこともできる。(上海市嘉定区で筆者撮影)
写真2 「蘿蔔快跑」のロボタクシーの後部座席には大型タッチパネルが設置されており、音楽を聴くこともできる。(上海市嘉定区で筆者撮影)
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