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Commentary

中国における自動運転
主な企業と乗車体験

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)
長い目で見れば、自動運転はさまざまな交通問題を解決する手段となりうるが、そこへ到達するまでの戦略を考え始める時が来ている。写真は百度(Baidu)の自動運転タクシー「Apollo Go」の完全無人タイプの車両。2024年4月、北京(共同通信社)

交差点で左折する場面でも車は安全かつスムーズに曲がった。ちなみに、中国の道路は右側通行であるため、左折する際には対向車に注意する必要がある。左折のみに青信号が出ていて、対向車が止まっている状態であれば曲がりやすいが、対向車線にも青信号が出ていて、対向車線の車も動いている場合もある。こうした「無保護の左折」をする場合、小馬智行のシステムではゲーム理論を応用しているという(Pony AI 2024, p.146)。つまり、相手の車の行動からその意図を読み、かつ自らの動きによって相手の車に意図を知らせ、それに対する相手の反応によって次の行動を決めているのである。

いま自動運転車が左折しようとしているとして、対向車が比較的近くまで来ているが、左折に配慮して減速してくれそうな雰囲気があるとする。そこで、自動運転車は少し前進して左折する意図を示す。そうしたら対向車が本当に減速したので、自動運転車は左折を遂行する。このように、一般のドライバーが運転する時には相手の意図を読み、自分の意図を行動によって相手に伝え、それに対する相手の反応から次の動きを決めるということを行っている。もし相手の意図を読まずに、対向車との距離など機械的な基準によって次の行動を判断するとしたら、とくに中国のように通行量が多い道路環境のもとでは、自動運転車が左折することはなかなか難しいであろう。

私たちが乗っていた間で自動運転にとって最もチャレンジングだったのは、前方で路肩に停まっていた車が合図もなくいきなり発進した場面である。この予想外の動きに対して、日本の一般ドライバーであれば懲罰的にクラクションを鳴らすだろう。一方、小馬智行の自動運転車は、車体が完全に対向車線に出るほどの大きな回避動作をとった。小馬智行の乗車体験のなかでこの動きに限っては、人間らしくない不自然な動きだという印象を持った。

2.上海――百度のロボタクシー

百度の自動運転車の概要

大手インターネット企業の百度も、自動運転を運営する代表的な企業として知られている。百度は2013年から自動運転の研究開発を開始し、2017年には自動運転プラットフォーム「アポロ」を開設して、ロボタクシーの他、自動運転バス、鉱山での無人トラック、無人巡検車などを開発している。百度は「蘿蔔快跑(ロボ・クアイパオ)」の名称により、全国11都市(北京、陽泉、上海、烏鎮、合肥、武漢、重慶、成都、長沙、広州、深圳)でロボタクシーを運行している。運行しているロボタクシーの総数は2000台ともいわれ、ロボタクシーの事業規模では中国最大であろう。

百度は自動運転車の低価格化を推進していることでも知られている。たとえば、百度が2021年に北京汽車集団の極狐(Arcfox)と開発した第5世代の自動運転車「アポロ・ムーン」はコストが48万元(約1000万円)で、当時のレベル4の自動運転車としては驚くべき安さであった(『光子星球』2021年6月17日)。さらに、江鈴汽車(フォードが32%出資する江西省の商用車メーカー)との共同開発により2024年5月に発売された第6世代の自動運転車「頤馳06」は価格が20万元(約400万円)と、自動運転車にしては破格の安さである(路 2025)。

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