トップ 政治 国際関係 経済 社会・文化 連載

Commentary

高齢化に直面する中国

劉生龍
清華大学公共管理学院副教授・国情研究院副研究員
経済
印刷する
写真は北京市内の公園を歩く高齢者。2024年10月。(共同通信社)
写真は北京市内の公園を歩く高齢者。2024年10月。(共同通信社)

解題

2024年12月7日~8日に清華大学国情研究院と東京大学中国イニシアティブとの共催による「第4回清華大学・東京大学発展政策フォーラム」が東京で開催された。今回のテーマは「競争と協力――グローバルな不確定性のもとでの日中経済貿易関係」である。

12月8日には東京大学にて公開シンポジウムが開催された。そのシンポジウムで行われた講演の概要を順次紹介する。

「高齢社会」の仲間入りをした中国

国連は各国における高齢化の進展に応じ、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合が7%以上である場合は「高齢化社会」、14%以上である場合は「高齢社会」、そして21%以上である場合は「超高齢社会」と呼んでいる。中国の人口構成を見ると1990年にはピラミッド型をしていたのが、2023年には釣鐘型になり、2050年には逆ピラミッド型になる見通しである。中国の65歳以上の人口の割合は2000年には6.96%だったが、2022年には14.9%、2023年末には15.4%と高齢社会の仲間入りをした。中国が高齢化社会から高齢社会に転換するのに要した年数はたった21年で、日本が27年かかったのに比べて急速に高齢化が進んでいる。中国の場合、高齢者の絶対数がとても多く、2023年には65歳以上の人口は2億1700万人もいる。特に農村の高齢化や東北部の高齢化が著しい。また、高齢者のうち認知障害がある者が1000万人、体に障害がある者が4000万人に及んでいる。

子女と離れて暮らしている老人たち(いわゆる「空巣老人」)の数は1億人以上とされ、独居老人は2100万人に及ぶ。2000年には人口8人で1人の老人を支える構図だったのが、2030年には4人で老人1人を支えるようになり、2050年には2人で老人1人を支える構図になる。もし自立できない・部分的に自立できない(失能、半失能)高齢者の割合が現在と変わらないとすると、その総数は2050年には1.2億人になる。また、80歳以上の高齢者の人口は1億3363万人となる。これだけの高齢者を支えられるような医療・介護体制を整備する必要がある。

中国の高齢者介護は家庭頼みというのが現状である。96%の高齢者が在宅であり、3%がコミュニティー介護、1%が施設介護という割合になっている。しかし、少子高齢化が進展するなかで、在宅中心の介護体制は大きな挑戦を受けている。

人口構造の変化が経済成長に与える影響

少子化に関していうと、2022年の合計特殊出生率(TFR)は1.09にまで落ち込んだ。平均寿命は1962年には50.82歳だったのが2022年には78.59歳になった。これこそが高齢化を招く最も根本的な原因である。

人口高齢化が経済成長に与える影響を見よう。人口が高齢化すると労働力が減少して経済成長にマイナスとなる。さらに貯蓄率が低下することから資本の成長にもマイナスの影響を与えるし、全要素生産性にも不利な影響がある。中国の2000年から2020年までの経済実績を見ると、GDP成長率は2003年から2010年まではハイペースを維持したが、その後緩やかに下がっていった。15~64歳の人口の割合もまさに同じように2010年がピークで、その後下がっている。我々の分析によると、1983年から2008年までの中国の成長のうち、人口構造の変化によって成長率が0.73%ポイント上昇し、出生率低下によって1.19%ポイント上昇した。つまり、この時期には人口構造の変化が経済成長にプラスとなった。しかし、2020年から2025年には人口の高齢化が経済成長を1.07%押し下げると推計されている。

出生率にプラスの影響を与える政策は何か

中国の人口政策の変遷を見てみよう。1950年から1973年までは出産を奨励していた。1970年代半ばから2013年までは「計画出生」の政策が採られ、晩婚、出産の間隔を開けること、少なく産み、素質のよい子供を産むことが奨励され、さらに「一人っ子政策」が採られた。2013年以後は人口政策の調整段階に入り、2013年には夫婦いずれかが一人っ子であれば2人まで子供を産んでいいことになり、2016年からは全面的に2人まで産んでいいことになり、2021年以降は3人まで産んでいいという政策に舵(かじ)が切られた。こうした急速な政策転換が行われたのは、出生数が予測を大きく下回ったことが影響している。

この問題に対して筆者らの論文は次のように分析している。高齢化への対策として、出生率の引き上げと女性の労働参加拡大は両方とも必要である。しかし、女性が出産すると労働供給に対してマイナスの影響がある。特に高学歴の女性においてそうしたマイナスの影響が顕著である。2人産んでいいという政策転換は女性の労働参加に対してマイナスの影響を及ぼすだろう。人口の高齢化に対応するには女性の教育水準の引き上げが必要であるが、教育水準の上昇が出生率にマイナスの影響を及ぼすことも否めない。一方で、筆者らの研究によって最低賃金の引き上げが出生率にプラスの影響を与えることが明らかになった。低所得層の間では出生意欲は高いものの経済的制約のために出産に踏み切れないでいる家庭が多い。最低賃金が引き上げられればそうした階層の出産を奨励することになる。一方、家庭が教育競争の圧力にさらされている場合には、子供の数を減らし、子供に多くの教育費をかける傾向があるという研究結果もある。人々が教育競争に駆られるのは学歴に応じて所得格差があるためである。従って、所得格差を縮小できれば出生率に好影響が出るのではないだろうか。

退職年齢引き上げがもたらす影響

2024年9月13日に全国人民代表大会常務委員会において法定退職年齢を引き上げる決定がなされた。15年かけて男性は現行の60歳から63歳へ、女性は現行の50歳と55歳から、55歳と58歳に引き上げられる。

筆者らの研究によると、退職は男性の健康にははっきりした影響はないが、女性の心身の健康によい影響がある。また、男性の退職は妻の健康状態にマイナスな影響を与える一方、女性の退職は夫の健康状態にプラスの影響がある。また、女性の退職年齢の引き上げは少子高齢化に対して不利な影響を与える可能性がある。なぜなら、高齢の女性が働き続けることによって、その孫たちの世話ができなくなり、そのために女性の子供たちの労働供給や出産行動にマイナスの影響を与えるからである。

(2024年12月8日の東京大学における講演に基づいて丸川知雄が記録をまとめた)

ご意見・ご感想・お問い合わせは
こちらまでお送りください

Copyright© Institute of Social Science, The University of Tokyo. All rights reserved.