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Commentary

高齢化に直面する中国

劉生龍
清華大学公共管理学院副教授・国情研究院副研究員
経済
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写真は北京市内の公園を歩く高齢者。2024年10月。(共同通信社)
写真は北京市内の公園を歩く高齢者。2024年10月。(共同通信社)

出生率にプラスの影響を与える政策は何か

中国の人口政策の変遷を見てみよう。1950年から1973年までは出産を奨励していた。1970年代半ばから2013年までは「計画出生」の政策が採られ、晩婚、出産の間隔を開けること、少なく産み、素質のよい子供を産むことが奨励され、さらに「一人っ子政策」が採られた。2013年以後は人口政策の調整段階に入り、2013年には夫婦いずれかが一人っ子であれば2人まで子供を産んでいいことになり、2016年からは全面的に2人まで産んでいいことになり、2021年以降は3人まで産んでいいという政策に舵(かじ)が切られた。こうした急速な政策転換が行われたのは、出生数が予測を大きく下回ったことが影響している。

この問題に対して筆者らの論文は次のように分析している。高齢化への対策として、出生率の引き上げと女性の労働参加拡大は両方とも必要である。しかし、女性が出産すると労働供給に対してマイナスの影響がある。特に高学歴の女性においてそうしたマイナスの影響が顕著である。2人産んでいいという政策転換は女性の労働参加に対してマイナスの影響を及ぼすだろう。人口の高齢化に対応するには女性の教育水準の引き上げが必要であるが、教育水準の上昇が出生率にマイナスの影響を及ぼすことも否めない。一方で、筆者らの研究によって最低賃金の引き上げが出生率にプラスの影響を与えることが明らかになった。低所得層の間では出生意欲は高いものの経済的制約のために出産に踏み切れないでいる家庭が多い。最低賃金が引き上げられればそうした階層の出産を奨励することになる。一方、家庭が教育競争の圧力にさらされている場合には、子供の数を減らし、子供に多くの教育費をかける傾向があるという研究結果もある。人々が教育競争に駆られるのは学歴に応じて所得格差があるためである。従って、所得格差を縮小できれば出生率に好影響が出るのではないだろうか。

退職年齢引き上げがもたらす影響

2024年9月13日に全国人民代表大会常務委員会において法定退職年齢を引き上げる決定がなされた。15年かけて男性は現行の60歳から63歳へ、女性は現行の50歳と55歳から、55歳と58歳に引き上げられる。

筆者らの研究によると、退職は男性の健康にははっきりした影響はないが、女性の心身の健康によい影響がある。また、男性の退職は妻の健康状態にマイナスな影響を与える一方、女性の退職は夫の健康状態にプラスの影響がある。また、女性の退職年齢の引き上げは少子高齢化に対して不利な影響を与える可能性がある。なぜなら、高齢の女性が働き続けることによって、その孫たちの世話ができなくなり、そのために女性の子供たちの労働供給や出産行動にマイナスの影響を与えるからである。

(2024年12月8日の東京大学における講演に基づいて丸川知雄が記録をまとめた)

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