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Commentary

中国と日本は世界の低炭素化へ向けて技術協力をすべきだ

薛進軍
清華大学公共管理学院訪問教授・名古屋大学経済学部特任教授
経済
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写真は福岡市や西部ガスなどでつくる協議会が運営する「福岡市水素ステーション」。2022年11月。(共同通信社)
写真は福岡市や西部ガスなどでつくる協議会が運営する「福岡市水素ステーション」。2022年11月。(共同通信社)

解題

2024年12月7日~8日に清華大学国情研究院と東京大学中国イニシアティブとの共催による「第4回清華大学・東京大学発展政策フォーラム」が東京で開催された。今回のテーマは「競争と協力――グローバルな不確定性のもとでの日中経済貿易関係」である。

12月8日には東京大学にて公開シンポジウムが開催された。そのシンポジウムで行われた講演の概要を順次紹介する。

日本は公害大国から環境大国に

日本は1960年代において高度成長の時期であったが、その代償として公害問題が発生した。四日市の化学工業の発展に起因する大気汚染と四日市ぜんそくの発生が代表的な事例である。その後、日本の環境は大幅に改善された。その理由の一つは、いわゆる雁行(がんこう)形態的発展を通じて、比較的に汚染・排出・エネルギー消費の大きい産業が日本から東南アジアや中国へ移転されたことがある。

日本は公害大国から環境大国になった。大気汚染を代表とするPM2.5を見ても1990年以前は年平均30㎍/m3であったのが2010年代には10㎍/m3にまで改善した。中国はPM2.5が基準以下の日は80%を超えるまで改善したが、それでも年平均では32.2㎍/m3程度である。

低炭素社会を実現するための日本の取り組み

気候変動対策に関して、日本政府は2012年に「低炭素社会実行計画」を打ち出した。さらに、2015年には「水素社会」という独自の路線を提起した。水素開発の研究が進められ、トヨタが水素を燃料とする燃料電池車「MIRAI」を商品化した。日本は2030年には2019年に比べて温室効果ガスの排出を30%削減し、2050年にはカーボン・ニュートラルを実現することを目指している。国だけでなく、各地の地方自治体も排出ゼロへ向けたタイムテーブルを作成している。

また、環境省がGX(グリーン・トランスフォーメーション)の目標を打ち出し、日本内外でのカーボン・ニュートラルへの取り組みを後押ししている。「GXリーグ」という企業どうしの取り組みを支援する枠組を設けたり、また、子育て世代に住宅のゼロエミッション化への助成を行う「子育てグリーン住宅支援制度」を設けたりしている。

東京では地下鉄や私鉄のネットワークが整備され、低炭素の交通を実現している。北京では何かというとタクシーをよく使うが、東京では鉄道で用が足りる。こうして、日本の二酸化炭素排出量は2014年以降顕著に減少している。

日本の二酸化炭素排出のピークは過去に4回もある。貿易を通じた間接的な排出(輸入品の生産に要した排出を算入し、輸出品の生産に要した排出を除く)を考慮すると、1995年、2000年、2005年、2013年がピークであった。その後は完全に排出減少に転じている。

炭素排出量の計算について、茅陽一(かや よういち)教授が案出した次の公式がある。

二酸化炭素排出=人口×一人当たりGDP×エネルギー効率(エネルギー/GDP)×二酸化炭素排出率(CO2/エネルギー)

人口を減らすことはしたくないし、一人当たりGDPはどの国も引き上げたいので、エネルギー効率を高め(=エネルギー/GDPを引き下げ)、二酸化炭素排出率を引き下げることが重要である。

「エネルギー転換の雁行形態論」の提唱

一般に発展途上国が経済成長していくと二酸化炭素排出が増え、ピークを迎えてやがて減少へ転じるというプロセスを経る。私は「エネルギー転換の雁行形態論」によって途上国が化石燃料の使用による炭素排出のピークを通らずに、直接低炭素化へ向かうようにすべきだと提唱している。そのため、先進国から途上国へ産業が移転する際に、低炭素技術も移転し、炭素ファンドからの投資によって途上国の低炭素化を支援すべきである。そうすれば途上国がエネルギー転換におけるリープフロッグ(飛び越え)が実現できる。

中国では近年新エネルギー産業が急速に発展している。とりわけ電気自動車(EV)の発展は著しく、日本やアメリカを上回っている。中国は新エネルギー産業の発展で蓄積した経験と技術を他の国々と積極的に分かち合い、その利益を共用(benefit sharing)し、国際的な緊張を和らげるべきである。なお、米中関係緊張による各種の直接投資貿易規制の中では、私は、中国と日本は、第三国、例えば共通関心のあるアフリカの国及び一帯一路の国において、エネルギー転換、気候変動対策などのグリーン産業の発展の協力と共同事業の展開を提案する。

(2024年12月8日の東京大学における講演に基づいて丸川知雄が記録をまとめた)

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