Commentary
「デカップリング」の障壁を乗り越えて発展するグローバル・バリュー・チェーン
アメリカの最終財輸入に占める中国の割合は2018年の33%から2021年の24%へ低下した。一方、アメリカの最終財輸入における東アジア・太平洋地域からの輸入の割合は10.0%から15.3%へ高まっている。そして、東アジア・太平洋地域の中間財輸入に占める中国の割合は52.5%から68.5%に上昇した。こうした現象を世界銀行の研究者は「デカップリングの幻想(decoupling delusion)」と呼んでいる。こうしたことが起きたのは中国企業がベトナムやメキシコなどに直接投資をしたことによる。
再グローバリゼーションのなかでバリュー・チェーンは
世界の財・サービスの貿易額もコロナ禍による落ち込みを乗り越えて、2022年にはそれぞれ25兆ドルと、コロナ以前を上回っている。世界で生産される製品のうち、海外へ前方連関している部分(海外の産業に中間財として入る部分)、海外から後方連関している部分(自国の産業に海外の中間財が入る部分)は2012年以降横ばいで、2019~2020年に下がったが、2022年は以前の水準を上回っている。つまり、コロナ後に再グローバリゼーションが始まった可能性がある。その背後では、地域的な包括的経済連携(RCEP)や環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の形成に促されたアジア・太平洋地域の貿易結合が高まったことが考えられる。
まとめると、米中貿易摩擦、地政学的摩擦、そしてコロナ禍により、旧来のグローバル・バリュー・チェーンに大きな打撃が加えられ、その表れとしてバリュー・チェーンが短くなった。またコロナ禍やアメリカによる経済安保への考慮に基づく貿易障壁によってコストが増大した。特に一国で最終製品まで作るとか、単純な加工貿易といったパターンの貿易はコロナ禍の間に縮小した。他方で、多国籍企業による多くの国境を跨(また)ぐようなバリュー・チェーンはやや拡大した。今後、第2期トランプ政権のような不確実性のなかで、RCEPやCPTPPのようなアジア・太平洋地域の自由貿易協定が、バリュー・チェーンの機能を安定的に保つうえでますます重要となるだろう。
(2024年12月8日の東京大学における講演に基づいて丸川知雄が記録をまとめた)