Commentary
桂林農村部で垣間見た「身の丈」イノベーション
中国農村部における社会発展に向けた取り組み②
飼料の原料として使われているのは、地元農家や食品加工工場から出る「ゴミ」(残渣)だ。それを牛が食べ、排出される牛糞は有機肥料に加工される。有機肥料は年間1万トン生産されており、飼料原料を提供している農家に還元される。一般向けの販売も行っており、街路樹や家庭の植木などに使われている。残渣や牛糞を有効活用することにより、ゼロエミッションの事業モデルを確立・実践しているわけである。
広西嶸盛の従業員は19名。「最大の経営リスクは感染症」ということで、従業員のうち10名は獣医と検査担当員である。飼料づくりからエサやり、有機肥料づくりの担当はそれぞれ2名しかいない。飼料は小型の電動車両に積まれ、飼育場の通路の両側に自動で撒かれるため、多くの人手を必要としない(図4)。
図4 廖栄強氏と飼育場の様子
飼料の発酵促進剤にしても、小型電動車両を使ったエサやりにしても、自動化や省力化に向けて随所に工夫していることが垣間見られる。
こうした工夫は広西嶸盛以外の訪問先でも見受けられた。次節では、農村部における身近な技術を使ったイノベーションについて紹介したい。
「身の丈」技術によるイノベーション
農村部の訪問先で見かけるイノベーションは決して最先端技術による大掛かりなものではない。「身の丈に合った身近な技術を使って、より良いもの、より便利なものを作ってみて、実際に使ってみて、その都度工夫を加えたもの」である。
霊川県の村にあるキノコ栽培工場では、経営者が自作した栽培ルームのコントロールシステムが使われていた。経営者はドイツに留学して機械工学を勉強した後、中国に戻って機械メーカーで働いていたが、2019年に霊川県でキノコ栽培会社を起業した。その後、「自分で電子部品を買ってきてコントロールシステムを作り上げた」という。栽培ルームの入り口には、社名が印刷されたコントロールボックスが設置されていた。2,700平方メートルのキノコ菌の培養ルームと2,560平方メートルの栽培ルームには、あわせて44基のコントロール設備が設置されており、24時間365日、室温や湿度が制御されている。
桂林の特産品の一つに羅漢果(らかんか)というウリ科の植物がある。羅漢果はテニスボールを一回り小さくした実をつける。実には咳を鎮(しず)める効能があり、中国では乾燥させた実を羅漢果茶にして飲む。最近では、砂糖に代わる天然甘味料として注目され、日本でも流通している。
棚田のある龍脊県で羅漢果の苗を育てている農場を訪れた時、監視カメラが目についた。尋ねてみると、監視カメラにAI(人工知能)を搭載した顔認証システムになっており、普段農場に出入りしていない不審者を感知すると警報を送信する仕組みだという。
羅漢果と共に、桂林を代表する農産品に柑橘(かんきつ)類がある。なかでも陽朔県はキンカンの一大産地だ。地元農家が協力して合作社を立ち上げ、地元政府の下で一帯の幾つかの合作社が協働して「キンカン産業示範区」を形成している。桂林の山々を背景にキンカン栽培のビニールハウスが見渡す限り広がっている光景は圧巻だ(図5)。
図5 陽朔県のキンカン産業示範区