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Commentary

中国企業の過剰債務問題の現在地
大企業は改善、小規模企業は悪化

関辰一
日本総合研究所調査部主任研究員
経済
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コロナ禍を挟み、中国の小規模・零細企業の債務が急増している。写真は2022年の「ゼロコロナ政策」により、閑散とする北京の飲食店街。2022年11月24日(共同通信社)
コロナ禍を挟み、中国の小規模・零細企業の債務が急増している。写真は2022年の「ゼロコロナ政策」により、閑散とする北京の飲食店街。2022年11月24日(共同通信社)

中国経済の新たなリスク

 小規模・零細企業向け貸出の急増は、2015年から2020年にかけて急増した不動産向け貸出のそれを彷彿(ほうふつ)させる。不動産開発企業向け貸出と住宅ローンを合わせた不動産向け貸出残高は、2015年末の21兆元から2020年末に50兆元へ急増し、その対GDP比率は同期間に30%から49%へと、5年間で19ポイント上昇した。その後、2020年秋から政府が不動産開発企業の資金調達を厳しく抑制したことをきっかけに、この貸出残高の伸びは鈍化し、不動産開発企業は相次いで債務不履行に陥った。小規模・零細企業向け貸出残高も、2023年末に71兆元、その対GDP比率は56%と、やはり5年間で20%ポイント上昇している。

 このままでは、いずれ巨額の債務が焦げ付き、不良債権が急増しかねない。不動産開発企業の債務が注目されてきたが、それに加えて、小規模・零細企業の債務が過剰債務問題を巡る新たな焦点になることが懸念される。

 国際通貨基金(IMF)も、中国の小規模・零細企業の債務急増に警鐘を鳴らし始めた。2024年2月に公表した『対中4条協議報告書』では、不動産市場の低迷とコロナ禍による非製造業企業の収益悪化により金融機関の資産の質が低下していることに加え、小規模・零細企業向け金融包摂貸出の急増も金融機関の資産の質に対する懸念を高める材料になっている、と指摘している。

 (本稿は、関[2024]を加筆修正したものである。2024年6月に公表されたBIS Total Credit Statisticsでは、中国の地方政府融資平台の債務残高が非金融企業部門から取り除かれたことを受けて、近年の非金融企業部門の債務残高の値が下方修正された。本稿は、BISの最新値を使用した。)

(参考文献)

  1. 岡嵜久実子[2019]「中国におけるデレバレッジの進展状況:「過渡期」の難しさ」、外国為替貿易研究会『国際金融』1322号、2019年7月。
  2. 関辰一[2024]「中国過剰債務問題の新たな動き:債務比率が改善する大企業、債務が急増する小規模企業」、日本総合研究所『環太平洋ビジネス情報RIM』24, No.93、2024年5月
  3. IMF [2024],” People’s Republic of China: 2023 Article IV Consultation”, IMF Country Report, No.24/38, February 2024.
  4. OECD [2024], Financing SMEs and Entrepreneurs 2024: An OECD Scoreboard, March 2024.
  5. 王信、雷曜、祝紅梅、趙天奕、王紫薇、唐文強、周有容[2021]「完善中小微企業融資制度問題研究」、中国人民銀行『中国人民銀行政策研究』2021年第7期。
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