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Commentary

中国企業の過剰債務問題の現在地
大企業は改善、小規模企業は悪化

関辰一
日本総合研究所調査部主任研究員
経済
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コロナ禍を挟み、中国の小規模・零細企業の債務が急増している。写真は2022年の「ゼロコロナ政策」により、閑散とする北京の飲食店街。2022年11月24日(共同通信社)
コロナ禍を挟み、中国の小規模・零細企業の債務が急増している。写真は2022年の「ゼロコロナ政策」により、閑散とする北京の飲食店街。2022年11月24日(共同通信社)

コロナ禍への対応

小規模・零細企業向け貸出が急増している主因は、コロナ禍への対応である。政府は、2020年1月後半に新型コロナウイルス感染症を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」を採用した。2020年後半から2021年に行動制限はいったん緩和されたものの、2022年にオミクロン株が流行しだすと上海や北京などで再び厳しい行動制限が行われ、2022年12月まで続いた。その一方で、ゼロコロナ政策による経済へのマイナス影響を緩和するために、金融と財政の両面で対応策を打ち出した。金融面では、市場への資金供給や再貸出等を通じた企業への金融支援、財政面では、増値税(付加価値税)の減税や社会保障料の企業負担分の減免等の措置を、それぞれ実施した。

とりわけ、政府が2020年2月の国務院常務会議で、小規模・零細企業と中規模企業向けの貸出の元利払いを猶予し、不良債権として計上しないことを一時的に是認するとの決定を発出した。同年5月の全人代では、金融当局が貸出額と貸出金利を強力に指導している「小規模・零細企業向け包摂金融貸出」の伸び率を、前年比40%以上とするよう大型商業銀行に要請した。

この結果、同期間に小規模・零細企業による資金繰り確保を目的とした借り入れが急速に拡大していった。そして、この借り入れの急拡大により、企業倒産数や失業者数の増加圧力が弱まったことは事実である。経済協力開発機構(OECD)[2024]によると、中国では2020年に小規模・零細企業と中規模企業を合わせた「中小零細企業」のうち、倒産した企業の数は全体の4.1%にとどまった。この倒産比率はその後2021年に3.3%、2022年に3.5%と、経済成長率が高かった2013年の8.0%や2014年の7.0%を大きく下回る水準で推移している。

先進国では、中小零細企業向け貸出金利は、その信用力を反映して大企業向け貸出金利を上回るのが一般的である。ところが、2019年以降の中国では、政府の強力な貸出指導を受けて、「小規模・零細企業向け包摂金融貸出」の平均金利は大企業向けとほぼ同じ水準に抑制されている。2023年末時点で、小規模・零細企業向け包摂金融貸出の残高は29兆元と、GDP比23%の規模に達した。

中国最大の国有銀行である中国工商銀行を例に確認すると、「小規模・零細企業向け包摂金融貸出」の平均金利は、2017年に5.21%と企業向け貸出全体の平均金利を0.85ポイント上回っていたが、2019年に4.52%へ低下した。2019年におけるその平均金利と企業向け貸出全体の平均金利の差は0.04ポイントとなった。2020年から2023年の期間も、小規模・零細企業向け包摂金融貸出の平均金利と企業向け貸出全体の平均金利の差は0.1ポイント以下である。

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