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Commentary

中国企業の過剰債務問題の現在地
大企業は改善、小規模企業は悪化

関辰一
日本総合研究所調査部主任研究員
経済
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コロナ禍を挟み、中国の小規模・零細企業の債務が急増している。写真は2022年の「ゼロコロナ政策」により、閑散とする北京の飲食店街。2022年11月24日(共同通信社)
コロナ禍を挟み、中国の小規模・零細企業の債務が急増している。写真は2022年の「ゼロコロナ政策」により、閑散とする北京の飲食店街。2022年11月24日(共同通信社)

 鉄鋼業を例に、政府の取り組みとその影響をみると、政府は2016年以降、粗鋼生産能力の削減目標を定めたほか、債務リストラを進めた。近年では、脱炭素政策の推進を理由に年間の粗鋼生産量や生産能力の拡大を制限している。

 これらの結果、鋼材の需給バランスは改善に向かい、鋼材価格は2016年以降持ち直した。また、中国鉄鋼メーカーは、高い加工技術が必要とされる冷延鋼板や電磁鋼板など高級鋼材の生産設備に的を絞って投資を行っている。

 鋼材価格の上昇と製品の高級化に伴って、大手鉄鋼メーカー32社の付加価値額が2014年の617億元から2017年に1,550億元へ増加した。一方で、債務残高が同期間に4,690億元から4,891億元と横ばいを維持したことで、債務比率は2014年の759%から2017年の315%へ大きく低下した。その後、債務残高、付加価値額ともにおおむね横ばいで推移している結果、債務比率もおおむね横ばいを維持している。

大企業の債務問題の改善が続くのか、注視が必要

 中国の非金融企業部門で債務の急増がみられたのは、2008年から2016年までの期間であった。BISによると、非金融企業部門の債務比率は2008年末の90%からピークの2016年3月末には155%へと65%ポイント上昇した。

 その原因として、リーマン・ショック後の4兆元の景気対策をきっかけとした過剰な投資の盛り上がりを指摘できる。企業は、大規模な金融緩和によって資金調達コストが低下するなか、過度な資金調達を続けていた。その資金でインフラ建設や不動産開発プロジェクトを進め、建設資材である鉄鋼やセメントなどの生産設備に投資をしていた。

 その後、2016年から非金融企業部門の債務比率が小幅に改善していること、とりわけ、大企業の債務比率が振れを伴いながらも改善していることは、中国経済が持続的な成長を果たすうえでの好材料といえる。一方で、このところ中国政府が景気を下支えするために企業に設備更新を奨励したことで、国有企業は積極的に固定資産投資を拡大しようとしている。今後、中国政府が企業債務を適切な水準にコントロールできるのか、注視する必要がある。

債務が急増する小規模・零細企業

 大企業で債務比率の改善がみられる一方で、小規模・零細企業の債務に目を転じると、貸出残高が急増し、債務比率も一貫して上昇していることが懸念される。国家金融監督管理総局によると、商業銀行とその他金融機関を合わせた金融機関全体の小規模・零細企業向け貸出残高は、2015年末の23兆元から2019年末の37兆元、2023年末の71兆元へ急増している。その対GDP比率も同期間で36%から42%、56%へ急上昇している。

 小規模・零細企業の債務の大部分は銀行からの借入金であることを勘案すると、小規模・零細企業向け貸出残高は、その債務残高にほぼ等しいとみなすことができる。実際、中国人民銀行のワーキングペーパー・王信ほか[2021]によると、2019年末時点で小規模・零細企業と中規模企業を合わせた「中小零細企業」の社債発行残高は1.3兆元である。これは、同時点の小規模・零細企業向け貸出残高の3.4%、GDPの1.3%にとどまる。

 とくに注目すべき点は、2019年末から2023年の期間の小規模・零細企業の債務残高の増加分34兆元は、同じ期間の大企業・中規模企業の債務残高の増加分14兆元を大きく上回っていることである。

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