Commentary
地方の苦境が招く中国「債務膨張」に漂う暗雲
政府債務残高の対GDP比は2028年に142.6%増の予想
中央経済工作会議後の談話では、地方債の一種である専項債券の範囲を拡大することが言及された。専項債券収入は、LGFV債務とは異なり、政府本体の政府性基金の予算項目に算入される。さらに、債券の案件ごとの詳細も公表されており、透明性も高い(地方債の案件データについては前回記事参照のこと)。範囲の拡大という文言には、これまでのような道路や工業団地のようなインフラ建設以外にも広げるべきであるという意味も込められているかもしれない。中国ではすでに多くのインフラが整っており、さらに追加的にインフラへの投資を行ったとしても、これまでのようなリターンは見込めないであろう。
同じく、中央経済工作会議後の談話の地方財政に関する内容として「三保」についての言及があった。この「三保」とは、基層の賃金、民生、地方経済運営の3つのボトムラインを堅持することを指す。予算項目でいうと、政府性基金ではなく、どちらかといえば収益とは関係のない一般公共予算に関する項目である。冒頭でも述べたようにこれらの項目は大半が地方政府によって賄われている。長年いわれている投資から消費へという観点からいえば、この「三保」関連も重要であろう。
ただし、「三保」が主に関連する一般公共予算については、減税・手数料削減、支出や中央からの移転を厳格にコントロールするといった地方政府にとっては厳しい文言が並ぶばかりである。ただでさえ、構造的な収支のアンバランスに苦しむ地方政府にとって、「三保」の堅持は可能なのか疑問である。
中央政府がもう少し積極的な役割を果たすべきだ
以上で述べたように、地方政府は良くも悪くも財政政策の重要なアクターなのであるが、財政出動と財政の持続可能性の両立という観点から中央政府がもう少し積極的な役割を果たすべきなのではないか。2023年の中央政府の債務残高の対GDP比率は25.8パーセントで、これは地方政府本体、LGFVそれぞれの債務残高の対GDP比率よりも低い(IMF 2023)。財政の持続性という観点からいえば、中央政府のほうが地方政府よりもまだ余裕があるのである。
2023年に中国は1兆元の特別国債を発行し、その収入をすべて台風や洪水被害にあった華北地域の地方政府へ移転し、地方政府が復旧や防災のために支出するということを行った。この債務はすべて中央政府に計上された。このような方法は、景気対策としての財政支出と地方政府の財政リスクの削減の両立という点で好ましい。さらに、国債の利率のほうが地方債の利率よりも低いことを考慮すると合理的でもある。地方政府の赤字を中央政府が補填してくれるだろうという想定で地方政府が財政支出を増やしがちになるソフトな予算制約の問題には注意を払う必要があるが、現状の中央・地方間財政構造を考慮すると中央政府が地方政府に対してより多くの財政移転を行う必要があるだろう。
参考文献:
IMF (2023)“People’s Republic of China,Staff Report for the 2023 Article IV Consultation”,International Monetary Fund.
周黎安(2007)「中国地方官員的晋昇錦標賽模式研究」『経済研究』2007年第7期、pp.36-50