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Commentary

スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦
コーヒー文化が中国に根づき、上海は店舗数急増

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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上海の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)。2017年に創業し、猛烈な勢いで店舗数を拡大している。2023年度第2四半期における中国内売上額ではスターバックスを上回った。(写真=2023年11月、筆者撮影)
上海の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)。2017年に創業し、猛烈な勢いで店舗数を拡大している。2023年第2四半期における中国内売上額ではスターバックスを上回った(写真=2023年11月、筆者撮影)

 こうしてラッキンコーヒーの挑戦に刺激されて、多数の中華系カフェが立ち上がっているが、その中でラッキンにとって最も手ごわい競争相手が庫迪珈琲(コッティコーヒー)である。というのも、コッティの経営陣は実はラッキンコーヒーを創業した元会長と元CEOで、彼らはラッキンの裏の裏まで知り尽くしているからである。

 元会長と元CEOは2020年の売上額粉飾の発覚で解任され、捲土重来を目指してコッティを創業した。そのため、コッティのビジネスモデルはラッキンとそっくりで、ラッキンと同じようなメニューをより低価格で提供することでラッキンから客を奪う狙いである。コッティは2023年5月に主要な商品を9.9元(200円)で提供するキャンペーンを開始し、8月にラッキンが9.9元に値下げして対抗すると、さらに8.8元(180円)に値下げした。

東京にも進出したコッティコーヒー

 コッティは2022年10月に第1号店を出したばかりだが、2023年8月には5000店舗を超え、10月下旬には6000店舗を超えるなど、ラッキンをさらに上回るペースで拡大している(『21世紀経済報道』2023年9月19日、同10月27日)。東京の本郷三丁目交差点のほど近くにも2023年秋にコッティの店舗が開業した。訪れてみると、店内には椅子が2つしかなく、ほぼテイクアウト専門である。

コッティ本郷店で買ったココナッツラテ。泡がもう少しほしい

 その店で一番のおすすめだという「ココナッツラテ」を買って飲んでみた。キャンペーン期間だったため本来は570円のところが330円だった。ココナッツとコーヒーが合うのだろうかといぶかしく思いながら飲んでみると、ココナッツの風味もするし、コーヒーの味もしっかりあって意外においしい。ただ、半分まで飲んだところで違和感を覚えて蓋を開けてみると泡立っていないことに気づいた。カフェラテというとミルクが泡立っているものというイメージだったので、泡立っていないのはかなり物足りない。

 2022年以来、中国経済の低迷が続く中で、カフェチェーンだけは例外的にすごく成長している。中華系カフェチェーンは本稿で取り上げたラッキンとコッティにとどまらず、より小規模のチェーンがまだまだいっぱいあるようだ。それらが全体として中国にカフェ文化を確実に根づかせている。

 ただ、ラッキンとコッティの間の泥仕合にはかなり危ういものを感じる。コッティはラッキンと同じ佳禾食品というサプライヤーからコーヒー豆を調達しており、両者は顧客を奪い合い、出店を競い合うだけでなく、材料調達でも競合している(『21世紀経済報道』2023年9月19日)。商品の販売では値下げ競争をし、材料を奪い合ってコストが高くなってしまうと、近いうちにどちらかが赤字に耐えられなくなって潰れてしまうのではないだろうか。

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