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Commentary

スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦
コーヒー文化が中国に根づき、上海は店舗数急増

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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上海の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)。2017年に創業し、猛烈な勢いで店舗数を拡大している。2023年度第2四半期における中国内売上額ではスターバックスを上回った。(写真=2023年11月、筆者撮影)
上海の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)。2017年に創業し、猛烈な勢いで店舗数を拡大している。2023年第2四半期における中国内売上額ではスターバックスを上回った(写真=2023年11月、筆者撮影)

 ラッキンは新メニューの開発も進めており、とりわけ2023年9月に発売された「醤香ラテ」は大きな話題を呼んだ。これは中国で最高級酒とされる茅台酒(マオタイ酒)のメーカーと共同開発したもので、カフェラテのミルクの中にマオタイ酒を混ぜ込んでいる(『21世紀経済報道』2023年9月5日)。本来の価格は35元(700円)だが、私が2023年11月に上海で買ったときの値段はキャンペーン中ということで18元(360円)だった。

 マオタイ酒は中国の蒸留酒の中でも匂いが強烈な「醤香型」に属するので、まさかコーヒーと合うまいと思ったが、飲んでみると意外にかぐわしかった。ただ、飲み終わる頃になると酒の匂いがだんだん強くなってきて、酔ってしまうのではないかと心配になるほどだった。

上海のラッキンコーヒーの店内にて。醤香ラテで酔いが……
上海のラッキンコーヒーの店内にて。醤香ラテで酔いが……

醤香ラテ、糟香珈琲、黒暗時刻、覚醒年代

中国共産党第1回大会会場の正面にある「一珈琲」

 「醤香ラテ」がはたしてラッキンコーヒーの売り上げにどれだけ貢献したのかは疑問ではあるものの、大きな話題となり、あとに続こうとする企業も出てきた。上海の街を歩いていたら「J9コーヒー」というお店で「糟香珈琲」を売り出していた。「糟」というのは酒粕のことなので、甘酒の香りがするのかもしれない。

 さらに、中国共産党の第1回大会(1921年)が開かれた場所を訪れたら、その会場となった古い建物の正面に「一珈琲」というカフェがあった。この店は第1回大会記念館のノベルティグッズを販売している会社が運営している。店の前には「上海で最も赤いコーヒーを飲んでらっしゃい(来一杯沪上最”紅”咖啡)」と書いてある。解説しても面白くないのでやめておくが、オヤジギャグの連発である。お値段を見ると、ブラックコーヒーとココアを混ぜた「黒暗時刻」が18.40元、つまりアヘン戦争開戦の年、ブラックコーヒー「覚醒年代」が19.21元、つまり中国共産党の創立年、と由緒ある値段設定になっている。

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