Commentary
ウクライナ問題でのすれ違いを回避した中露共同声明
「平和の友」グループの盛り込みから見える配慮

2025年5月7日、習近平がロシアを訪問した。翌8日には、習近平とプーチンは会談を行い、「中国人民抗日戦争およびソ連の『大祖国戦争』勝利ならびに国連創設80周年を記念する、中露新時代の包括的な戦略的協力パートナーシップのさらなる深化に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同声明」に署名した。9日には、「戦勝80周年」を祝う軍事パレードが行われ、習近平とプーチンは隣り合わせに座って見守った。
プーチンとの関係に注意を払う習近平
習近平自身が言っているように、ロシアは習近平が国家主席として最も多く訪問した国であり、今回の訪露は11回目にあたった。しかも今回はソ連の大祖国戦争(対独戦)勝利を祝う「戦勝80周年」の節目の年であり、中露の友好関係を世界にアピールするかたちになった。中国はロシアのウクライナ侵攻に対し、「中立」の立場を表向き取っているなか、習近平はこれまで以上にプーチンとの関係に注意を払い、実際にロシアに足を運び続けている。
中国のこうしたロシアに対する方針は、すでに拙稿「中国はロシアとどのように向き合っているのか:中露首脳会談と「5つの堅持」から見える距離感」において論じた。「5つの堅持」とは、2024年5月に習近平が自ら示した方針で、内容は以下のようになる。
第1に、相互尊重を根本とすることを「堅持」し、核心的利益の問題で常に相互に支持する。
第2に、ウィンウィンの協力を動力とすることを「堅持」し、中露の新たな互恵互利の構造を構築する。
第3に、世代を超えた友好を基礎とすることを「堅持」し、中露友誼の聖火を共に伝えていく。
第4に、戦略協力を支えとすることを「堅持」し、グローバル・ガバナンスを正確な方向に導く。
第5に、公正正義を主旨とすることを「堅持」し、紛争問題の政治的解決の推進に尽力する[1]。
相互尊重の「堅持」に始まる、この「5つの堅持」は、プーチンの求めに応じたものではない。中国外交の一つの基本方針として位置づけられている。習近平はロシアとの良好な関係を、今後も世代を超えて維持していくつもりであり、戦略協力の関係を今後も志向し続けていくつもりである。したがって、しばしば中露関係は便宜的な関係と形容されるが、習近平政権の認識では、ただの便宜的な関係ではない。「ジュニアパートナー」の語に代表されるような従属的な関係としても認識されていない。
このことは今回の習近平の訪露からしても明らかである。習近平は行かなくてもよいロシアに行き、プーチンを立て、対等な関係をアピールし続けている。便宜的な関係の相手であれば、はたまた「ジュニアパートナー」であれば、そこまでする必要はないことを習近平はしている。習近平が前のめりになる背景には、対米関係においてプーチン率いるロシアがいることの重要性がある。平たく言えば、プーチンが一緒にいてくれる頼もしさがある。その根底には習近平のプーチンに対するシンパシーやリスペクトがあるのだろう。
新たに盛り込まれた「平和の友」グループという文言
5月8日に出された共同声明は、中国の抗日戦争とソ連の大祖国戦争の勝利80周年を記念するものであるということもあり、特に日本では、歴史認識問題における日本への牽制という面に注目が集まった。しかし、歴史を論じた冒頭の文章を脇に置くと、共同声明の内容の大半は中露間の実務的な事柄になる。