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Commentary

「デカップリング」の障壁を乗り越えて発展するグローバル・バリュー・チェーン

高宇寧
清華大学公共管理学院副院長・副教授・国情研究院副研究員
経済
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写真はタイ東部ラヨーン県で建設中の中国電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)の工場。2023年12月1日。(共同通信社)
写真はタイ東部ラヨーン県で建設中の中国電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)の工場。2023年12月1日。(共同通信社)

解題

2024年12月7日~8日に清華大学国情研究院と東京大学中国イニシアティブとの共催による「第4回清華大学・東京大学発展政策フォーラム」が東京で開催された。今回のテーマは「競争と協力――グローバルな不確定性のもとでの日中経済貿易関係」である。

12月8日には東京大学にて公開シンポジウムが開催された。そのシンポジウムで行われた講演の概要を順次紹介する。

「スローバリゼーション」の時代

世界のGDPに占める貿易の付加価値額は2008年までは急上昇していたが、その後は世界経済危機もあって上下動が続き、2019年以降はコロナ禍もあって下落している。こうして世界はグローバリゼーションから調整期を経て「スローバリゼーション」の時代に入った。

中国からグローバル・バリュー・チェーンを経由してアメリカとEUへ輸出される付加価値額は2018年までは増えていたが、その後減少した。なかでも中国で簡単な加工を経てアメリカへ輸出されるパターンの貿易は2018年までは伸びていたが、2020年に急減している。一方、中国から複雑なバリュー・チェーンを経由する輸出は対アメリカでは安定的に伸びているが、対EUでは2018年までは伸びたが、その後減少した。

アジア域内での中間財貿易はコロナ禍の時期に大きく伸び、特に発展途上アジアから中国への中間財輸出が伸びている。中国から欧米への中間財輸出が減る一方、中国の中間財輸入国としての存在感が増した。米中貿易摩擦が本格化する直前の2018年には、中国と他の発展途上アジアがアメリカから中間財を買い込んで摩擦に備える現象が見られた。同年にはEUからの中間財輸入も大きく伸びた。

その後、コロナ禍の時期には中国からの最終商品輸出が伸びる一方、他の発展途上アジアは中間財の輸出国として中国に取って代わった。また、コロナ禍のもとでバリュー・チェーンが短くなり、貿易がグローバルからリージョナルなものに変化しつつある。但し、これは平均値の話であり、中国の電気自動車(EV)産業などはむしろグローバル・バリュー・チェーンへの参与を強めている。

米中貿易は縮小傾向

米中貿易は縮小を続けており、中国はかつてアメリカの第一の貿易相手国だったのが、2023年にはEU、メキシコ、カナダに次ぐ第4位にまで後退している。ただ、メキシコとベトナムのアメリカに対する輸出のうち10%ぐらいは実は中国に淵源(えんげん)する輸出である。このように中国から第三国を経由してアメリカへ向かう間接輸出額を推計すると、2017年には160億ドルだったのが、2022~2023年には530億ドルに増えている。こうした間接輸出額と、中国からアメリカへの直接輸出額を足し上げると、貿易戦争開始前の貿易水準にほぼ戻っている。アメリカの学者はこの現象を「巨大な再配分(great reallocation)」と呼んだ。

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