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Commentary

中国の家庭貯蓄行動などを追跡する金融調査
中国学へのミクロデータ活用法:社会調査データ編③

唐成
中央大学経済学部教授
連載
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中国では、急速な高齢化やそれに対応した年金制度が普及している中で、家計貯蓄率は依然として高い水準にある。筆者は中国家庭金融調査(CHFS)のデータを活用し、その要因を分析している(写真:ryanking999/PIXTA)

 2018年に、私はアジア経済研究所が発行する学術誌『アジア経済』(59巻1号)に「中国における家計の資産選択行動――山西省の事例を中心に」と題する研究を発表しました。この研究では、独自の調査データを用いて、借入制約を受ける家庭(つまり銀行などからお金を借りようとしても十分に借りられない家庭)がかえって株式投資を積極的に行っていることを発見しました。これは経済学の借入制約理論とは逆の実証結果であり、中国の個人投資家が特異な性質を持つ可能性を示唆しています。

 その後、別の研究者が「中国家庭金融調査」(China Household Finance Survey:CHFS)のデータを用いて実施した借入制約に関する実証分析の結果が、私の研究と一致しなかったとの論文が掲載されました。たまたまその研究者が主催する北京での学術会議に招かれた私は、自身の研究結果を共有しました。その際、彼からCHFSデータを使用して私の結果を再検証する提案があり、これがこのデータベースを活用し、実証研究を進める動機となりました。

家計の資産・負債・収入と支出などを包括的に調査

 CHFSは、中国全国規模の家計経済調査データです。西南財経大学の中国家計金融調査研究センターによって2011年から2年ごとに実施されています(https://chfs.swufe.edu.cn/)。                    

 CHFSデータの利用にあたって、実際にどのような調査が行われているのかを知りたくなり、2019年8月に同センターを訪れました。写真は、私が案内された成都郊外の農村で、学生調査員がアンケートを行い、タブレットにデータを入力している様子です。難しい答えが返ってきた場合、大学センターにすぐに電話で指示を仰いでいました。データの入力後、数字などの入力ミスは即座に検出され、大学本部に送信される仕組みにもなっています。

四川省成都市郊外のある農村で実施された家計調査の様子(筆者撮影・2019年8月5日)

 CHFSデータは、ほかのミクロデータに比べて、いくつかの魅力を感じます。たとえば、下記の2つの点が挙げられます。

 1.大規模サンプル:層化3段と確率比例サンプリングを使用し、29の省の345の県と1360の村まで調査範囲が及び、CHFS 2019では4万11世帯の有効なサンプルと10万7163人の個人情報が収集されています。

 2.豊富なデータ内容:質問項目は190ページに及び、家計の基本情報、雇用、資産、負債、収入と支出、社会保障、商業保険などに関する情報を包括的かつ詳細に提供してくれています。

 これにより、研究者は質の高いデータセットを構築し、家計の経済・金融行動の変化を追跡し、包括的かつ詳細に分析することができます(現在、海外からのデータへのアクセスが難しいという情報もあります)。

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