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Commentary

習近平はどのように「個人支配化」を進めたのか
反腐敗闘争で政敵排除、毛沢東に並ぶ「領袖」へ

李昊
神戸大学大学院国際文化学研究科講師、日本国際問題研究所研究員
政治
国を動かす共産党の強いリーダーとして3期目に入った習近平総書記(2022年10月、写真=共同通信IMAGE LINK)
中国を動かす共産党の強いリーダーとして3期目に入った習近平総書記(2022年10月、写真=共同通信IMAGE LINK)

 2012年の習近平政権発足当時、習近平は権力基盤が弱く、安定的な政権運営が難しいと思われていた。2期10年の最高指導者の定期的な交代が定着した結果、総書記が健康な状態で気力を残したまま退任するようになった。習近平政権では、江沢民と胡錦濤の2人の元総書記が健在であり、習近平は彼らの介入に悩まされると予想された。しかし、2012年の政権発足以来、習近平は権力集中に成功し、2022年の第20回党大会を経て、総書記に留任し、異例の第3期政権に突入した。共産党の最高指導部たる政治局常務委員会に後継者と目される人物はおらず、2027年の第21回党大会でも習近平が留任する可能性が高いと広く認識されている。

 10年に及ぶ習近平政権を経て、中国のエリート政治の生態は大きく変化した。68歳定年制の不文律はおおむね維持されながらも、習近平、張又侠、王毅などの例外が生じている。江沢民や胡錦濤に連なる人脈はほとんど存在感を失い、政治局は習近平に忠誠を誓う人物で固められた。鄧小平時代から定着してきた集団指導体制は形を残しながら、実態としては急速に個人支配体制に転化しつつある。

 習近平はさまざまな側面から、効率的に権力と権威を強化し、制度を変え、自らの地位を高めてきた。本稿では、習近平体制下において、どのように個人支配化が進められてきたのかを整理する。

鶏を殺して猿に見せつける「反腐敗闘争」

 習近平がまず取り組んだのは、汚職腐敗の取り締まりだった。習近平は就任直後の政治局集団学習会で早速「腐敗問題が深刻になれば、最終的には必然的に亡党亡国となってしまう」と腐敗に対する危機感を表した(注1)。2013年1月には、「虎もハエも叩く」と言って反腐敗闘争の火蓋が切られた(注2)

 従来、汚職腐敗を司る中央規律検査委員会はさほど存在感を持っていなかったが、習近平はこの組織を存分に利用し、腐敗の咎(とが)で政敵を次から次に排除していった。党では江沢民に近いとされる周永康元政治局常務委員とそれに連なる石油部門、政法部門、四川省関係者が次々と摘発を受けた。軍では、胡錦濤政権で制服組トップの中央軍事委委員会副主席を務め、江沢民と近いとされる徐才厚と郭伯雄の2人が摘発された。胡錦濤前総書記に近い人物では、側近として知られる令計画元中央弁公庁主任も失脚した。

 第1期政権の終盤では、第6世代の最高指導者有力候補とされた孫政才(当時重慶市党委員会書記)を摘発した。第2期政権でも摘発の手を緩めることなく、かつて周永康が掌握していた政法部門(公安、司法など)を再度重点として、孟宏偉公安部副部長、孫力軍公安部副部長、傅政華前司法部長など、次々と高級幹部を摘発した(注3)

 反腐敗闘争は、単に政敵を排除したのみならず、他の政治エリートに対する「殺鶏儆猴(鶏を殺して猿に見せつける)」の威嚇効果もあった。また、失脚者の後釜には習近平に近い人物が据えられ、同時に習近平勢力の拡張も進められた。

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