Commentary
「三冠王」中国の課題
「自信を支える底力」に求められる改革

2.「世界システム論」から見た中国の「中心」入り
筆者は1990年当時、「従属論」を恒川恵市氏に、「世界システム論」を田中明彦氏に学んだ。両氏は当時、米国から帰国したばかりの新進気鋭の政治学博士であった。
世界システム論によれば、世界は「中心」「準周辺」「周辺」の三層構造から成り、常に先進国が中心的役割を担う。例えば、ラジオの普及を達成した先進国において初めて、テレビという次世代製品に対する新たなアイディア、需要が生まれる。これにより、先進国は常にイノベーション、資本、人材、研究開発、製造、流通、販売の全プロセスを担う世界の需要と供給の中心となる。他方、「準周辺」および「周辺」の国々は、中心国のために働く「従属」という地位に置かれる。
この構造に基づけば、1970年代から80年代にかけてカラーテレビや家電、自動車などを普及させた先進国において、1990年前後にパソコンや携帯電話といったIT化の新たな需要が生まれた。これに対し、当時の中国は依然としてカラーテレビや白物家電の普及段階にあり、大きく後れを取っているように見えた。
しかしながら、次世代製品が研究開発から量産・普及に至るには相応の時間を要する。例えば、白黒テレビの発明からカラーテレビの普及までは半世紀を要した。このような「先進国の停滞期間」こそが、準周辺国が中心国に追い付く機会、すなわち「歴史的チャンス」であると世界システム論は指摘している。
3.日本と中国の「中心」入りの比較
この理論に照らせば、1970、80年代に「中心」入りを達成したのは日本であった。当時、日本は最高水準の機械化を実現した上、IT革命の初期段階において半導体、パソコン、携帯電話などの製品開発と量産を主導した。その結果、西側諸国では「ジャパン・バッシング」が吹き荒れ、「プラザ合意」「日米半導体協定」などの「経済摩擦期」と呼ばれた対日関税戦争、経済戦争が繰り広げられた。レーガン政権下では、日本のパソコンやテレビに対して100%の関税が上乗せされた。当時の中曽根康弘首相は、かろうじて日本車への上乗せ関税100%の適用を免れたと後に述懐(じゅっかい)した。これに比べれば、2025年のトランプ関税(20%台)は「関税戦争」より、まだ穏当と言えるかもしれない。
一方、中国は1980年代より改革開放を進め、約30年後の2010年にGDPにおいて日本に追い付き、機器製造による産業革命を完成させた。そこで進行中のIT革命の「最終電車」に間に合い、続いてAI革命のスタートラインに「中心」諸国と肩を並べて立つことに間に合った。
そして、2025年1月21日のトランプ大統領就任式に合わせて発表された中国製AIモデル「DeepSeek」は、トランプ政権による新関税発動の直前という絶妙なタイミングでの象徴的成果となり、中国がAI分野においてもフロントランナーになったことを内外に印象づけた。
対照的に、インドは中国より十数年遅れの1990年代から改革を開始し、試行錯誤のうちに機械化が未完成に終わり、IT化とAI化の「終電」に乗ることはできなかった。