Commentary
「三冠王」中国の課題
「自信を支える底力」に求められる改革

『日本経済新聞』(2025年5月23日)はEUの事例を報じている。EUは2023年10月より、中国製電気自動車(EV)に対する関税を合計で17.8%〜45.3%に引き上げた。しかし、2025年4月の登録台数において、中国製EVは前年比59%増を記録し、これに対し欧州・日本・韓国・米国のメーカーは26%の伸びにとどまった。中でもBYDは初めてテスラを抜き、登録台数で第1位に躍進した。
確かに、アマゾンやウォルマートなど米大手企業が2025年4月に中国からの輸入を一斉に停止し、米国の港湾が空となる事態も発生した。5月に関税が49.3%へと引き下げられても、依然として「価格転嫁は避けられない」とする米国企業の姿勢は変わらなかった。トランプはこれに激怒し、「今まで儲けすぎていたのではないか。関税分は自分たちで吸収すべきだ」と一喝した(『日本経済新聞』2025年5月18日など)。トランプの「一喝」の意図は不明ながら、ここで言う米国企業とトランプの争いは、いずれにせよ、中国企業が関税分の価格差をもう負担しない、値下げしないという前提での争いである。それは少なくとも、中国の輸出企業の交渉力が強まっていることを意味しているだろう。
前述(「中国はなぜ米中関税戦争に勝利したのか?」)の通り、米中間でかかる関税は、現状では通常の関税と上乗せ関税を合計すると、米国は中国からの輸入に対して49.3%、中国は米国からの輸入に対して39.3%〜44.3%である。米国側の関税は中国製品の流入を阻止するには不十分である一方、中国側の関税は米国製品の輸入をほぼゼロにする効果を持ち得る。現状においても、米国からの輸入は、米国企業が関税を支払っているか、中国側の米中関係への「配慮」によって成立しているに過ぎない。
その2.ギリギリのタイミングで米国発のAI革命に追い付く
1.機器製造、IT製造、AI開発の「三冠王」
周知の通り、約300年前に始まった機械使用による産業革命、1990年代から本格化したIT革命、そして2020年前後より台頭したAI革命が、連続的に展開されてきた。
中国の歩みを俯瞰(ふかん)すると、前近代においては、個人による営農と農業市場経済を2000年以上にわたり営み、結果として経済・版図両面で世界最大の国となった。この豊かさゆえに機械の使用を必須とは捉えず、近代において約100年の後れを取り、列強による侵略の対象ともされた。
しかしその後、「貧者は変を望む」(毛沢東)。中国は西側諸国に追い付こう、追い越そうとした結果、2025年現在、機器製造、IT製造、AI開発のすべてにおいて世界的な主導権を握りつつある。他方で、西側諸国は製造業の空洞化が進み、故にIT化が遅延し、AI分野においては米国のみが中国と並び立つ状況にある。
中国は半導体分野においては未だ遅れているとの反論もあるが、実際には、世界最大の半導体輸入国であると同時に、最大の製造国・輸出国でもある。中国は最先端に次ぐ成熟プロセス半導体を大規模に量産しているが、それらは最も需要が高い汎用半導体である。2024年、中国における半導体の生産量は4,514億枚で前年比22.2%増、輸入は5,492億枚(3,856億ドル、1ドル=約150円として約58兆円)で9.5%増、輸出は2,981億枚(1,595億ドル)で16.9%の増加を記録した。
国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の予測によれば、2024年および2025年の中国の半導体製造能力は、月産885万枚および1,010万枚に達し、いずれも世界全体の約3分の1を占めるとされる。量産能力において中国は世界一であり、これに続くのは台湾、韓国、日本、米国、EUであるが、日本と米国はそれぞれ世界シェアの10%前後、EUは5%未満にとどまっている。
このようにして、中国は2025年という「関税世界大戦」の開戦年に間に合う形で、「二冠王」に加え、AI革命においても先導的なポジションにある。これを可能にした要因は、以下のようなロジックによりある程度説明が可能である。