Commentary
中国はなぜ米中関税戦争に勝利したのか?
中国の貿易相手の多角化が奏功

(3)仮にトランプ関税が中国のみに適用されるのであれば、理論上、米国企業は他国から低関税で輸入する選択肢がある。しかし実際には、トランプ関税はすべての貿易相手国に対して高関税を課しており、米国企業にとっては質・量・価格面で最も有利な相手国を選ぶしかなく、それは結局、中国という選択肢に戻ることになる。
トランプは2025年6月末から、インド製のiPhoneにも25%の関税を課すと表明した(5月23日)。アップルは対中関税を回避するために、対米輸出分の生産を中国からインドに移そうとしていたが、この発表により、その方針も頓挫する可能性が高い。
中国が近年、東南アジア、南アジア、アフリカ諸国に生産拠点を分散し、米国への間接的な輸出ルートを確保しているとの指摘もある。だが、これらの国々は中国から中間財を輸入しなければ生産が成り立たない。例えばベトナムでは、製造に使う中間財の約6割を中国から輸入しているという。米国はこうした国々に対し、高関税の脅しによって原産地規則の厳格化や迂回輸出ルートの封鎖を求めているが、それに応じれば製造の質・量・コストの保証が困難になる。
確かに2018年以降、中国からの製造業の一部の海外移転は続いている。しかし、それは同時に中国主導のグローバルな産業サプライチェーンの展開でもあり、その結果として、輸出の急拡大、供給網の強靭(きょうじん)化、諸国との利益共有、関係の緊密化が進んでいる。習近平の言葉で言えば「人類運命共同体の建設」「一帯一路の推進」が前進していると言えよう。
現在、約130カ国が中国を最大の貿易相手国としており、それ以外の国々も中国を第2、第3の貿易相手国としている(中国海関総署、2024年)。モノ消費よりもサービス消費の比率が高い米国市場と比べて、中国は世界最大のモノ消費市場でもあり、各国がその中国を犠牲にして、関税搾取をしてくる米国に追随する理由は見当たらない。
日本は世界のなかでも国民の中国への好感度が最も低い国であるが、そんな日本でさえも「中国に対抗する経済圏に参加するよう求める米国の動きに対し、抵抗する意向を示していると、現職および元当局者が明らかにした」そうである(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-24/SV7ZACDWRGG000)。ただ、そのような事実を日本のメディアは伝えようとしない。
オーストラリアの例も挙げておこう。ファレル貿易相は「オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー」紙のインタビューで次のように語っている。「中国は我が国最大の貿易相手国であり、対中貿易は対米貿易の10倍も重要だ。われわれは中国との貿易を減らすのではなく、むしろ増やそうとしている。われわれは米国人の意向ではなく、オーストラリアの国益に基づいて中国との関係を決定する」(2025年5月15日)。2024年のオーストラリアの対中輸出は2,120億豪ドル(約19兆6,500億円)に達し、対米輸出はわずか370億豪ドル(約3兆4,300億円)にとどまっている。
続く「「三冠王」中国の課題――「自信を支える底力」に求められる改革」では、中国の経済発展の特異性と将来の課題を紹介する。