Commentary
中国はなぜ米中関税戦争に勝利したのか?
中国の貿易相手の多角化が奏功

前例となった「相互関税」方式
以下では、第1次関税戦争(2018~2020年)と現在進行中の第2次関税戦争とを比較することで、両国の政策過程における変容の一端を明らかにしたい。
まず米国については、以下の二点が注目される。
第1に、トランプ政権第1期における関税戦争は、ほぼ中国に限定されたものであったのに対し、第2期における現在の関税戦争は、当初から全世界を対象とする「関税世界大戦」と化している点である。
第2に、第1次関税戦争において米国が課した上乗せ関税率は最大で25%であったが、第2次関税戦争では、国別に異なる「相互関税」が導入され、その中でもカンボジアには最大49%が課されるなど、より高水準かつ選別的な政策が採られている。
次に中国については、以下の点が重要である。
第1に、中国は一貫して、米国からの関税措置に対し即座に報復関税を発動してきた。こうした姿勢は、現在の国際政治経済環境を一定程度形成する要因となっている。損得の評価は別として、その事実を正確に認識することが必要であろう。
2018年3月、トランプ政権は全世界に対し、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税を一律に課す方針を公表した。当時、中国から米国への鉄鋼・アルミの輸出は、前オバマ政権下ですでに制限措置が講じられていたことから、わずか年間28億ドル程度と限定的であった。そして、トランプ関税の主な対象はOECD諸国であったので、中国は、この「内輪もめ」を静観することもできたはずであるが、なぜか率先して世界で最初の、かつ唯一の報復国としてトランプ政権と正面から衝突する道を選択した。
結果として米中間の関税合戦は激化し、2018年から2019年を経て、2020年1月15日にようやく『第1段階経済・貿易協定』が締結された。その直後の1月22日、トランプ大統領はスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、「同時に中国とEUの両方と貿易戦争を行うつもりはなかったが、今や中国とは合意に至ったため、EUと合意ができなければ自動車に25%の追加関税を課す」と発言した。ところが翌23日、中国・武漢にて都市封鎖が発令され、世界はCOVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックに突入することとなり、トランプの自動車関税戦を発動させる場合ではなくなった。
第1次関税戦争期において、旧時代のビジネスマン的思考を持つトランプは、鉄鋼・アルミ・自動車を「米国製造業復興の象徴」と位置づけ、主にOECD諸国(欧州、日本、韓国、カナダ、メキシコ)をターゲットに据えていた。ところが、中国が自ら主要対抗国として関税戦争に正面から参戦したことで、米中間の対立は、関税戦、経済戦、技術戦、さらには政治戦にまで拡大した。そしてこの対立は、米中という二大超大国を軸とした国際競争の新時代の幕開けを早めることとなった。この「早すぎた幕開け」は、米中両国、ひいては国際社会全体にとって本当に有益だったのかは、改めて検討すべき課題である。
第2に、第1次関税戦争時には、中国は「対等」や「平等」といった原則を堅持し、米国と2年にわたり粘り強く交渉を続けた。トランプは、おそらく欧日韓との自動車関税戦に早く移行していくためであったと思われるが、結果的に、米中双方の平均関税率を19.3%に設定することで妥結を見た。当初は米国側が一方的に関税を課したものであったが、最終的には「相互関税」という対等の形に落ち着いた。
この「相互関税」方式は前例となり、第2次関税戦争においても、いわゆる「パス依存(path dependence)」の論理により、トランプ政権は再び「相互関税」を採用するに至ったのではないかと推察される。そして今回も、中国側は粘り強く米国との対等・平等の原則を貫く中で、進んでワシントンではなく第三国での会談までトランプに受け入れさせ、交渉の結果として、34%対34%の相互関税、そのうち24%対24%分を90日間延期するという対等の形の合意に至った。
このように、中国は米国との間において「対等・平等」を原則とする関係構築を貫き、現在ではその原則が一種の「ルール化」されつつあると言える。