Commentary
中国は「中ぐらいの先進国」へ向けて邁進する
解題
2024年12月7日~8日に清華大学国情研究院と東京大学中国イニシアティブとの共催による「第4回清華大学・東京大学発展政策フォーラム」が東京で開催された。今回のテーマは「競争と協力――グローバルな不確定性のもとでの日中経済貿易関係」である。
12月8日には東京大学にて公開シンポジウムが開催された。そのシンポジウムで行われた講演の概要を順次紹介する。
高所得国への仲間入りは可能か
世界銀行は各国を所得水準に応じて4つに区分しているが、中国は1998年に低所得国から下位中所得国に上がり、2010年には上位中所得国になった。中国はこれから果たして高所得国に仲間入りすることができるのだろうか。中国は「社会主義現代化強国」を目指しているが、それはすなわち世界最大の高所得国になることを意味している。
中国の人口が世界の人口に占める割合は次第に下がっていて現状は17.5%である。一方、中国の製造業の付加価値が世界全体に占める割合は28.8%であり、世界最大の工業国である。2021年の国際ドルによる購買力平価換算の一人当たりGDPを比べると、1990年時点では中国はアメリカのわずか3.71%だったが、2022年には30.06%に上昇した。これは日本がアメリカにキャッチアップした時のペースよりもはるかに速い。
2013年から2023年の間、中国のGDPは年平均6.1%の勢いで成長した。購買力平価で測ったGDPでは2013年には世界の14.2%を占めていたが、2023年には世界の18.8%へ拡大している。この10年間の世界全体の経済成長に対して、中国の寄与率は30%前後である。
中国共産党が示す発展目標
中国共産党の第19回大会(2017年)では、中国がこれから2つの段階を経て発展していく道筋を示した。第1段階は2020年から2035年までであり、この15年で「社会主義現代化」を基本的に実現する。第2段階は2035年から21世紀中葉まで、この15年で「社会主義現代化強国」を作り上げる。
中国はいろいろな面で「強国」になることを目標としている。2012年の中国共産党第18回大会では「人材強国、人的資源強国、文化強国、海洋強国」の4つを目指すとしていた。党第19回大会では「強国」目標は、製造強国などが付け加わって15に増えた。さらに党第20回大会(2022年)では「ネットワーク強国」と「農業強国」が新たに加わり、17の「強国」目標が掲げられた。
第20回大会では2035年の目標として「中ぐらいの先進国」の水準を目指すと定められた。これはつまり、中国がまるごと経済開発機構(OECD)38カ国の経済水準に上がるということを意味する。一人当たりGDPが低い西部地域は、OECDのメンバーのなかで一人当たりGDPが最も低い国(例えばメキシコは2023年に1万3790ドルだった)のレベルに到達することが目標である。一方、北京のように一人当たりGDPがもともと高い地域は先進国の中の上の方を目指す。
発展目標が実現するための有利な条件
中国はこうした現代化への発展目標を実現するのに有利な条件を持っている。まず中国には工業体系が完備している。国内市場も大きいし、高速鉄道網などの交通インフラが整備された。国内の貯蓄率と投資率は高く、国際競争力のある企業も育ってきている。そして国有企業と民間企業が相補い合う構造がある。ほぼ国民をカバーする生活保障システムも整備されている。
私は2035年までに「社会主義現代化」を実現するという目標は達成できると思う。その時の中国は「中ぐらいの先進国」並みの経済水準に達しているだろう。人口の都市化率は現在のEU並みの75%以上となり、平均寿命も81歳となってEUの平均に到達するだろう。一人当たりGDPではアメリカの40%程度に到達するだろう。中国が「中所得国の罠」に陥るという見方もあったが、2035年時点ではもう罠を飛び越え、世界最大の高所得国になっていることだろう。
(2024年12月8日の東京大学における講演に基づいて丸川知雄が記録をまとめた)