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Commentary

EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?
あるとしたら、どこにあるのか?

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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アメリカのバイデン政権は5月14日、中国製の電気自動車(EV)と太陽電池に対する制裁関税を引き上げると発表した。写真は「北京国際モーターショー」のブースに展示されたポルシェのEV ”Taycan”と龍。2024年4月25日(共同通信社)
アメリカのバイデン政権は5月14日、中国製の電気自動車(EV)と太陽電池に対する制裁関税を引き上げると発表した。写真は「北京国際モーターショー」のブースに展示されたポルシェのEV ”Taycan”と龍。2024年4月25日(共同通信社)

イエレンが中国から戻って2週間後、テスラが14万人の従業員の10%以上を削減する計画があることが明らかになった。つまり、テスラも生産能力が過剰なのである。また、EVはガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車と競合する。中国やヨーロッパではEVがガソリンエンジン車の市場を食っている。日本では欧米や中国に比べてEVの普及が遅れており、2023年の新車販売台数478万台のうちEVは全体の3%にあたる14万台にとどまったが、もし「2050年に排出実質ゼロ」という国際公約を本気で達成するつもりならば、2050年より5年ぐらい前にはガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の新車販売はゼロになるはずである。ということは、EV工場よりもむしろ旧来の自動車工場およびその部品工場が生産能力過剰になる。

実際、日産は中国での自動車生産能力を最大で3割削減することを明らかにした(『日本経済新聞』2024年3月13日)。ホンダも2割削減するという。つまり、中国でのEVシフトについて行けない日本メーカーが過剰生産能力を抱えているのだ。中国市場で劣勢に陥った日本の自動車メーカーは、まだ優位にある北米や東南アジアに注力するというが、そうは問屋が卸すまい。

例えばタイの自動車市場では、日本車が長らく9割のシェアを維持していたが、2023年は78%にシェアを落とした。BYDや長城汽車(GWM)などの中国勢が台頭し、シェアを11%に伸ばしたからだ。タイでは日本よりもEVシフトが急ピッチで進んでおり、2023年の乗用車の新車販売のうち18%がEVで、その8割が中国ブランド車だった(『経済参考報』2024年3月22日)。

中国ではEV生産に多くの企業が参入している。写真は家電メーカー「創維(Skyworth)」が立ち上げたEVメーカーの車。2024年3月、深圳にて筆者撮影
中国ではEV生産に多くの企業が参入している。写真は家電メーカー「創維(Skyworth)」が立ち上げたEVメーカーの車。2024年3月、深圳にて筆者撮影

日本の自動車産業が全体として不要になる?

日本以外の主要な自動車市場ではEVシフトが急速に進みつつある。EVシフトへの対応が遅れている日本勢は世界的にもマージナルな存在へと落ちぶれていき、最後はEVの普及が進まない日本市場にしがみつくしかなくなる、という最悪のシナリオまで見えてきた。

2018年の末であったか、NHKの番組のなかで著名な自動車産業アナリストが「日本は世界のEVシフトを遅らせるべきだ」と語っていた。その趣旨は、日本の自動車産業はガソリンエンジン車やハイブリッド車で世界的に競争力が強いので、日本の産業と市場の影響力を使ってEVシフトを食い止めれば日本の産業に有利になる、という意味だった。これを聞いていささか日本の影響力を買いかぶりすぎではないだろうか、日本がEVシフトの足を引っ張ろうとしても世界でEVシフトが進み、日本が世界から取り残される懸念はないのだろうか、と首をかしげざるを得なかった。現実はまさにその懸念の通りになろうとしている。このままでは日本の自動車産業が全体として不要なものになってしまう。

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