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Commentary

EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?
あるとしたら、どこにあるのか?

丸川知雄
東京大学社会科学研究所教授
経済
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アメリカのバイデン政権は5月14日、中国製の電気自動車(EV)と太陽電池に対する制裁関税を引き上げると発表した。写真は「北京国際モーターショー」のブースに展示されたポルシェのEV ”Taycan”と龍。2024年4月25日(共同通信社)
アメリカのバイデン政権は5月14日、中国製の電気自動車(EV)と太陽電池に対する制裁関税を引き上げると発表した。写真は「北京国際モーターショー」のブースに展示されたポルシェのEV ”Taycan”と龍。2024年4月25日(共同通信社)

中国の公約は2060年に温室効果ガス排出の実質ゼロであるが、EVと再生可能エネルギーの導入においてはすでに世界一である。2023年の中国のEV販売台数は810万台で、世界の59%を占めた。2023年の中国の太陽光発電設備の新設は235~277GWでやはり世界の6割前後であった。世界の需要が今後も急増することが見込まれ、かつ中国国内の需要が全体の6割前後を占めているとなれば、中国のメーカーが前のめりで生産能力の増強に励むのも当然である。その勢いをくじくことは果たして地球温暖化防止に益するであろうか。ましてアメリカのように中国産EVと太陽電池に高率の輸入関税をかけるならば、アメリカ国内のEVと太陽電池の値段がそれによって釣り上がり、アメリカにおけるEVシフトと再生可能エネルギーの導入を遅らせるであろう。

バイデン政権がこのタイミングで中国に対する制裁関税の引き上げを行ったのは来る大統領選挙向けのアピールだとの解釈がもっぱらである。もしトランプが次期大統領になればまず間違いなく排出実質ゼロの公約を反古(ほご)にするだろうから、ここはバイデンの選挙狙いの近視眼的な判断には目をつぶり、彼が再選されて理性的な判断能力を取り戻すのを待った方がいいのかもしれない。

差別化商品における「過剰生産能力」

過剰生産能力の問題を考えるにあたってもう一つ重要な視点は、EVや太陽電池のような差別化された商品における過剰生産能力は、標準化された商品のケースとは現れ方が違うという点である。一般的な鋼材や基礎化学品など標準化商品の場合、生産能力の過剰があるときは業界の企業がほぼ一様に苦しい思いをする。いずれかのメーカーが生産性において決定的な差をつけない限り、どのメーカーも稼働率低下に悩むことになる。標準化商品の場合は業界で需要予測を共有して過剰な生産能力を形成しないように心がけることが重要である。政府が情報共有を促進する役割を果たすこともできるであろう。

一方、差別化商品の場合、メーカーによって過剰生産能力の有無や規模が異なる。競争力のない製品を作っているメーカーは製品が売れないので生産能力がだぶつく一方、競争力のあるメーカーは生産能力がむしろ不足するかもしれない。

中国のEV市場を見るとテスラや蔚来(NIO)のような高級車から上汽通用五菱(SGMW)のように街乗りに特化した低価格品まで千差万別であり、メーカー数も50社ぐらい存在する。市場に対するアプローチはメーカーによって多様であり、比亜迪(BYD)のように幅広い製品ラインアップを揃えて生産能力を一気に拡大してシェアを取りに行くメーカーもあれば、高級車を限られた数だけ作って高く売って儲けようとするメーカーもある。

こうしたEV産業において、一部のメーカーを指して生産能力過剰の元凶だと批判することは、競争力のあるメーカーを抑えつけてしまうリスクがある。イエレン財務長官が4月に行ったことはまさにこれである。イエレンは中国のEVや太陽電池の生産能力が過剰だと非難した。中国のEV産業と太陽電池産業が全体として生産能力過剰であることは本稿冒頭に述べた通りであるが、果たして中国だけが過剰なのだろうか?

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